ハッと目を覚ました。

ここはどこ?

ママとパパは?

僕はあたりを見渡した。

ここは…僕の部屋だ。

僕はベッドの上にいる。

枕が涙で濡れていた。

夢はいつも同じ結末を迎える。

いつも二人に触れることはできない。

ママとパパは消え、大粒の涙だけが僕のもとに残る。

ため息をついてリビングへと向かった。

リビングからはヴァイオリンの音色が聞こえる。

ママの音色ではない。

父の音だ。

多分僕の方が上手だと思う。

僕はリビングの扉を開けた。

そこにはたくさんのヴァイオリンがあった。

調整中のもの、壊れているもの。

父はその一つ一つを手直ししている。

それが父の、そして僕の仕事だった。

「おはよう」

僕は言った。

挨拶なんてしても無駄なのに。

けれどもママとパパがいたときの習慣が抜けない。

父は僕を無視して自分の部屋へと戻っていった。

ササっと顔を洗い、パンをかじってお腹を満たす。

買い出しのためのバスケットをもって、いつものストローハットをかぶる。

この帽子はママとパパがプレゼントしてくれた大切なもの。

そうだ、今日はあの場所に寄り道しようか。

僕たち3人の思い出の場所まで。