準夜勤が終わってロッカーで着替えようと思ったら少し肌寒く感じた。やばい疲れ溜まってきたかな?風邪ひきそう…早く帰ろう…と一歩足を踏み出すと他の科だと思われる看護師さん達の声が聞こえてきた。

「ねぇねぇ…亘先生、一昨日社食で外科の泉先生と話してたって?見た?」
「見た見た!親密に話してたの。とってもいい雰囲気だったよーお似合いだよねー同期だっていってたし。付き合ってるのかな?」
「そうなの?やっぱり?亡くなった看護師さんのことがあって傷心の亘先生を癒すのは妹じゃなくて同期になるのかなぁ?」
「妹なんてかなりの年下じゃん。釣り合わないよ。仕事だって全然だしさー」
「そうだよね。あの人、バリバリ仕事できる人だったし…」 
「亘先生かっこいいもんねー私にも現れないかな?」
「ムリムリあんなハイスペック滅多にお目にかかれないじゃない」
「そうだよねーじゃあいつもの所に飲みに行きますか」
「いいよー明日夜勤だし、行こ行こ」

……声が聞こえなくなったのを確認して自分のロッカーの場所から移動した。
誰もいないロッカーはシーンとしていてやっぱり肌寒かった。
なんで私だけ生き残ってしまったんだろう。神さまはどうして私だけ…そう思うと涙が溢れてきた。
考えても考えても答えの出ないことをいつまでも考えてしまう。
どうしようもない心の隙間はまだ埋められそうもない…
ぼーっとしてしまい、ふと時計を見ると終電が行ってしまった時間だった。
仕方ない今日はタクシーで帰ろう。
そう思い外に出たら「詩織っ」と声をかけられた。

「亘くん…お疲れ様。どうしたの?」
「詩織を待ってた。帰るんだろ?」
「うん。ぼーとしてて終電乗り遅れちゃったっ亘くん仕事休みじゃなかったの?家にいたし…何かあったの?」
「いやっ最近、ろくな話もできてないし、ちょっと詩織と話たいことがあって…迎えにきた。車持ってくるから待ってて」そう言って走って車を取りに行ってくれた。
外は雨が降っていた…雨なんか降る予想じゃなかったのに…

「ごめんね…わざわざ迎えに来てもらって。でも助かっちゃった。終電乗り遅れたし、雨降ってるし…私さぁー、病院の寮に入れるか聞いてみようかな?」

「っえ?詩織、寮に入るの?なんで?」

「亘くんにお世話になるのは申し訳なくて…だって私がいたら彼女、家に呼べないでしょ?お荷物じゃない。申し訳ないよ」

「詩織、前にも言ったけど…」

「それに私、お姉ちゃんの代わりは無理だから…」

「詩織?香織の代わりって何?」

「ううん…なんでもない。あ!着いた。ありがとね。お風呂に入って寝るから…おやすみ」

私は、言いたいことだけ言って先に家に入った。