まさか、そんなことがあったなんて知らなかった…きっと大きい病院だからニュースにもなっていただろうけど、私は日々必死に生きててニュースなんて気にして見ていなかったのかも知れない。

「詩織…結婚しよう。こんな状況でプロポーズなんておかしいかも知れないけど…俺は学会から帰ったら詩織にプロポーズしようと思ってたんだ」そう言って2年前にプロポーズしようと買ってくれた指輪を左手にはめてくれた。2年前に買ったとは思えないほどキラキラとしていて輝いていた。

「これからは、ずっと一緒だから…詩織、抱きしめさせて」亘くんの胸に顔を寄せた。温かい…久しぶりに触れる亘くんの温もりに涙が溢れた。
「ずっと頑張ってくれてありがとう。大変だったよな。これからは俺もちゃんと子育てするから。望夢のパパになってもいいよな?」少し不安そうな声で聞かれた。

「亘くん。本当にいいの?何も言わずに望夢も産んじゃったし…」

「詩織?何言ってるの?望夢がいるなんて思ってはなかったからびっくりはしたよ。でも俺は嬉しいよ。ありがとう。望夢を産んで育ててくれてて…3人で幸せになろう」
「ありがとう…亘くん…」
亘くんの温もりに安心した私は、そのまま眠ってしまった。

「のぞくーん、お昼ですよーって…すみません。ママ寝てますねっ…望夢くん少しは食べられるかな?」

「ありがとございます。望夢、食べようか」

「あのー西先生から聞きました。望夢くんのパパだって…すいません」

「いや。こちらこそ、お世話になってます」

「ママ頑張ってましたよ。たぶん、ご飯もあまり食べれてないし…シャワーも…のぞくん、他の人に懐かなくて大泣きしちゃうからすぐに上がってきちゃって…夜は夜で咳が辛いから、すぐにぐすっちゃうから抱っこしてて、ようやくパパが来てくれて安心したのかも知れないですね。……あっすみません。余計なこと言って…失礼します」

子供が入院なんて詩織は不安だったんだろうな。目の下のくまも酷いし…ゆっくり寝ててほしい。

「望夢、食べられるかな?」
「あーい」
「はい。あーん」 

「亘、話は…ってごめん。川原さん寝ちゃった?」

「あぁ…寝不足だったんだな。可愛そうに、くままで作って…」

「のぞくん、パパに抱っこされてご飯食べてるのか…よかったな。のぞくん、他の人の抱っこ全然ダメだったのにやっぱ父親はわかるんだろうな」

「ありがとな。卓也のおかげで詩織とまた会えたよ」

「俺も入院誓約書がなければわからなかった…しかも担当医だったから気づいてよかったよ」

「望夢はどうなんだ?まだ退院まで時間かかるか?」

「やっと熱が下がったんだ。これからちゃんとご飯が食べれるようになったら点滴外して、あと2〜3日は様子をみたい。けいれんは1回だけだったから今後は様子見だな」

「わかった。今日は俺も泊まっていいか?詩織に負担かけさせた分、代わってやりたいから」

「あぁ…事情が事情だし、原則1人の付き添いだけど亘には特別許可するよ」

「ありがとう卓也」

俺は望夢にご飯を食べさせ終わってもまだ寝ている詩織を寝かせた。望夢はご飯を食べて満足したのか俺の腕の中で眠りかけているその重みがとてつもなく嬉しかった。