なんだか今日は朝から病院内がそわそわしていた。そう先週、聞いた新しい脳外科医の先生がやってくるのだ。人違いであって欲しい…でも少しだけ…ほんの少しだけ期待をしている自分がいるのを感じていた…

「初めまして、今日からここ石渡会 札幌病院に赴任しました高林 大河です。よろしくお願いします」大きな拍手の音が響いた。

人違い…だった。
期待していた…心の奥底では…やっぱり違うよね…そりゃそうだ…こんな所まで亘くんが私を探すわけないもん。
きっともう出ていった私のことなんて忘れてる。そんなドラマや小説のようにまた運命的に再会して…なんてそんなことあるわけない…

なんだか気が抜けてしまってその後のことはあまり覚えていない。私には関係のない人だ。脳外科医なら余計に今後は関わらないだろう…

「川原さん、次の患者さん名前を呼んでも来ないの、探してきてくれない?」
「はい。わかりました」

「小林さん。小林太一さん」
大きな声で呼ぶも返事がない。歳が85歳と高齢だ。もしかしたら耳が遠いんだろう。待合室に目を向けると日向の椅子に座ってる男性がウトウトしていた。肩を叩いて声をかければ小林さんだった。診察室に案内して事無きを得た。

あっという間に午前の診察も終わった頃、保育園から電話で望夢が熱を出してるので迎えに来て欲しいと…師長に伝え早退して保育園に行くと、朝は元気だった望夢が少しぐったりしていた。
保育園から病院に戻り診察をしてもらう。風邪の症状で男の子はすぐに熱を出す子がいるけど大丈夫ですよ。と言ってもらえ、薬をもらって家に帰る。

小児科で少しは勤めていたこともあって少しの熱なら動じないと思っていたが、わが子の事になると心配で…夜中に目が覚めては呼吸を確認している自分がいた。

きっと入院していたお子さんの親はみんなこんな不安な気持ちを抱えていたんだろう…それよりももっとかも知れない。ほんの少し熱を出しただけで狼狽える自分に喝をいれた。

次の日の昼前には熱も下がり、うどんをペロリと食べるわが子をみて安心した。
でもご飯を食べてすぐに遊ぼうとする望夢をあやしてお昼寝をさせる。子供は無理と感じないが、遊んでしまうと夜にまた熱が上がってしまう子が多いからだ。

「望夢、熱下がった?」
「あやちゃん…心配かけてごめんね」
「ううん。さすが小児科で働いてただけあるね。しっかりしてる」
「そんなことないの。夜中なんて呼吸してるか何度も確認しちゃって…」
「はっはっは!そりゃ親だもん。他人の子とは違うでしょ。望夢がお昼寝してるうちに詩織ちゃんも横になりな」

あやちゃんの言葉に甘えて、望夢と一緒に布団に入った。寝不足と疲れていたせいか、すぐに私も眠りに落ちていった。