「医院長、お話とは…」

「あぁ…実は美華が帰ってくることになってね。」
「そうですか…医院長も嬉しいですね」
「帰ってきたら美華と結婚してくれないか?」
「結婚…ですか?」
「あの子は知らない国で頑張ってたよ。もちろん英語力も上がってるし看護師としてのスキルも上がった…しかもずっと君の事が好きだったみたいだしな」
「現地でいい方と出会えたかもしれませんよ?」
「いやっ、帰ってくると連絡があった時に言われたよ。君と結婚したいって…だから頼む。君の伴侶に美華をしてくれないか?」
「申し訳ありませんが、私は今付き合っている彼女意外と結婚するつもりはありません」
「そこをなんとか…将来のポストも用意してある。君は将来、医院長になれるんだぞ。可哀想だけど身寄りのない人との結婚より美華の方が…」
「医院長…彼女を悪く言うのはやめてください。私は彼女を愛しています。これで失礼します」

医院長室から出て、どっと疲れが出た。
勝手なことを言って…別に俺は医院長になりたいわけでもないし美華さんと付き合おうと思っていない。
医院長の娘の美華さんは看護師として働いていたが英語の勉強がしたいと海外に行った。行く前に好きだと言われたが、その時の俺はもう詩織が好きだったから断った。

今ようやく手に入れた詩織との幸せを壊されては困る。そう思っていた。

それからしばらくして美華さんが帰ってきた。
「亘先生、お久しぶりぶりです。ずっと会いたかったです」そう言って急に抱きついてきた。俺はすぐさま引き剥がした。本当やめてくれ。いくら海外で生活していたとはいえスキンシップは勘弁してほしい。

「お帰りなさい。美華さん」
「なんだか冷たいのね。久しぶりに会ったのに…そうだ今日の夜のご予定は?一緒にご飯食べに行きませんか?」
「申し訳ありませんが予定がありますので…」
そう言って帰ろうとした俺の所に医院長がやってきた。
「久しぶりに美華が帰ってきたんだ。少しでいいから付き合ってくれないか?」

仕方なく詩織に連絡を入れて医院長と美華さんと一緒に行きつけだと言われた料亭にやってきた。

「安斎先生、贔屓目で見てるのは自覚しているが美華も綺麗になったと思わないか?早く孫の顔が見たいな」
「お父様、そんな気が早いですわ…亘先生お付き合いから始めませんか?私、亘先生と結婚できたら他には何も望みません」
「申し訳ありません。先日も申しましたが彼女以外との結婚は考えられません」
「今の君のポジションをなくなっても?」
「それでも構いません。別に私はこの病院に執着してるわけではありません。資格さえあればどこでもできますから。失礼します」

外は雨が降り出してきていた。早く詩織に会いたくて雨の中走って駅に向かった。

この時の俺はこれからの詩織との未来しか見えなかった…詩織さえいてくれれば…なんでも頑張れると思ってた。
でも本当は他のことは後回しにしても詩織を守るために動いていたら俺たちの未来には違ったのかもしれない…

これから起こることなど気づく事はできなかった…