「川原さん…っていない?」

「ねぇ…河合さん、503号室の川原さん見なかった?」
「川原さんですか?」
「今後のリハビリについて話をしようとしたら部屋にいないの。担当はあなたよね?」
「さっき亘先生と泉先生が話してるの聞いてる途中で走って行きましたけど?」
「追いかけなかったの?」
「病室に戻ると思ったので…」
「今日、ドレーン抜去したばかりなのよ。もし転倒したらどうするの。とりあえず探してきて」
「っはい…」

“はい。安斎です”
“お疲れ様です。主任の柏原です”
“お疲れ様です。何かありましたか?”
“503号室の川原さんの姿が見えません。先生ご存知ですか?”
“えっ?詩織が?”
“今日の担当のものが亘先生と泉先生の会話を聞いてる途中で走って行ってしまったと…”
“っ…詩織は会話を聞いていた?”
“はい。さっきと言ってました。担当者は病室に戻ると思ったようですが先程、私が部屋を覗いたらいなかったもので…先生がご存知かと思ってお電話いたしました”
“わかりました。私の方でも探してみます”
“こちらも、なにかわかりましたらご連絡します”
“よろしくお願いします”

《Side 亘》

詩織は何を聞いたんだ?
さっき…泉先生と話したのは…まずい…詩織に会いに行けなかったのは、高校時代の先輩から久しぶりに会わないか?と連絡が来た。ヘッドスパもしてやるし、その後にご飯でも食べに行かないか?と誘われてた。なかなか会えないのでつい嬉しくて医局にいた泉に話してしまった。詩織のオペも午後一だから大丈夫と思ってたら…急患が入ってオペになって先輩に連絡できずにいた。ようやく終わって詩織のところでも行こうと思ったら泉に捕まってしまった。前々から先輩のヘッドスパを受けたいと言っていたが紹介がないと行けなく、しかも予約がいっぱいという話もあって行けなかったので一緒に行きたいと言われ、約束の時間も迫っていたため、一緒に向かった。先輩にお願いして泉にヘッドスパ体験をしてもらったら、やっぱり気持ちよくて気に入ってくれた。泉が帰った後、先輩と食事に行った。先輩も忙しそうで1年先まで予約がいっぱいだそうだ。それでもたまには…と俺の為に時間を作ってくれてありがたかった。そんな先輩の状況なのに、またすぐに行きたいから紹介してほしいとねだられて断ってた。その話を聞かれてたのか…行けなかった嘘がバレてしまった…しかも勘違いもしてる…

「なに難しい顔してるの?」
「俺…詩織に…」
「ねぇ何かあったの?」
「詩織がいなくなった。俺、探してくるから」
「いなくなったって…なんで?」
「さっき話してた内容を聞かれた…たぶん勘違いしてる」
「あ…私もう一度とか好きとか良かったとか口走ってたと思う」
「だろ?何も知らない人間が聞いたらどう思う?」
「身体?」
「アホかお前は…でも詩織がそう思ったら?あいつは家族が亡くなって自分だけが生き残った。そんな中、彼氏には裏切られ余計に敏感になってる。それなのに俺は、朝オペが長引いて行けなかったって嘘ついたんだよ。最低だろ。とりあえず探してくるから」
「病院から出てってないの?」
「わからない…もしかしたら…外見てくる」
「私も行く…私のせいだもの。一緒に行くから」看護師たちも探していたが見つからず…とりあえず俺たちは外に出た。

どこを探そうと思っていたら、前から小学生くらいの女の子2人が走りながら「先生…先生」と呼んでいる近づいてどうしたか聞くと裏の公園でパジャマを着たお姉ちゃんが泣いてるよっと…詩織だ…泉と公園まで走った。

公園のベンチで涙を溢してる詩織がいた。
「っ詩織…し…おりっ」
「…っう…」
「詩織、病院戻るぞ」
「い…か…ないっ…」
「詩織?」
「わ…たし…お姉ちゃんの…ところにいく…行きたい」
「詩織、何言ってるんだ」
「亘…くん…なんて…だいっ…きらい…もう…ほって…おいて…」
「詩織ちゃん、私が悪かったの。ごめんね。どうしても亘にお願いしてほしくて…」
「わ…た…る…?」
「詩織、勘違いするな泉…いや泉先生は同期なだけで同期のやつはみんな呼び捨てするだけだから。俺が好きなのは詩織だよ。詩織だけだから」
「もう…嘘…つかなくていいから」
「詩織、嘘なんかついてない」
「ついたじゃない…朝、オペが長引いたって…私に会いに来るより泉先生と一緒にいたかったんでしょ。もう嘘はたくさん。もう1人にしてお願い」
「詩織、ごめん。俺が嘘ついた。でもそれは泉先生と一緒にいたかったわけじゃない。」
「嘘よ。じゃあなんでコソコソするの?やましい事がないなら言えばよかったのに…言えなかったんでしょ。亘くんが来るのずっと待ってたのに…どうして嘘なんかつくの?看護師さん達も言ってた。2人はお似合いだって…身体の関係だって…」
「詩織、嘘をついた事は謝る。本当ごめん。詩織に勘違いされるのが嫌で嘘ついた。でも誰に何を聞いたか知らないけど俺は泉先生に恋愛感情を持ったこともない。信じてほしい」
「いまさら亘くんの何を信じればいいの?どうせ私はお荷物だから、もうお姉ちゃんのところに行くの」
「詩織っ…お前も看護師だろ何言ってるんだ、そんな命を粗末にするなんて香織は喜ばない。香織は仕事に一生懸命で常に患者さんに寄り添ってた。もっともっと生きたかったはずだろ?」
「私はお姉ちゃんと違うの。お姉ちゃんは綺麗で仕事もできて頼りにされてお姉ちゃんが生きてればよかったのに、私がいなくなればよかったのに…もう仕事も辞めるから…っ…わぁ…あっ…つっ…」
「詩織。きっと詩織が生きてる意味があるんだ。とりあえず病院に戻るからな?みんな心配してるから」

泣きじゃくる私を亘くんは抱っこして病室に連れてった。泣きすぎて目が痛くて、頭も痛くなってきた…

「詩織、眠くなる薬、入れるよ。ゆっくり休んだらいい。今は何も考えないで…起きたら、ちゃんと話しような。おやすみ…」そう言って注射を打たれて、そのまま眠ってしまった。