「ねえ聞いてよ。元カレが、あたしを追ってこの学校に入学してきたみたいなの。超怖いんだけど」
「うわっ、なにそれ」
 わたしたちの前を歩くカップルが、そんなことを話しているのが聞こえてきた。
 わたしたちと同じ制服……だけど見たことのない子たちだから、きっとちがうクラスの子だ。
「なにかあったら、あたしのこと絶対守ってよ?」
「おう、任せとけって」

 うわぁ、そんな人いるんだ。
 ストーカー? それが本当だったら、危なくない?

「ねえ、今の聞いた? みんながみんな、由井くんのとこみたいにスッパリ後腐れなく別れられるわけじゃないんだね」
 ドキドキをごまかすために、何気ない風を装って話を振ると、由井くんはぴたりと立ち止まり、急に方向転換してその人たちとは別の方向に進みはじめた。
「ち、ちょっと……」
「なんだ、そいつ。マジでキモイな、って言えば満足?」
 なんだかご機嫌斜めな様子で、ずんずん大股で歩いていく。
「そんなこと言ってないよ。ただ、いろんな人がいるんだなーっていう、単なる好奇心というか……」
「んなの別れた理由とか、個人差とか、いろいろあるだろ。俺は、少なくとも思い出したくもない。もう二度と元カノのことは話題にすんな」

 やっぱり、すごくイヤな思い出なのかな。
 何度も持ち出したりして、わたし、由井くんのこと傷つけちゃったかも……。