「たとえば、デートってどんなことしてたのかなー、とか?」
 わたしのことをじっと見つめていた由井くんが、小さくため息を吐く。
「つまり、キスしたことあるかってこと?」
「キ!? いや……まあ……それもあるけど……」

 え、あるの?
 そりゃあカノジョがいたなら当然……。
 え、やっぱり当然するものなの??

「……ねえよ」
「へ!? あー……そうなんだ」

 な、なあんだ。

「ま、それも原因のひとつかもな」
「原因?」
 由井くんのつぶやきに首をかしげる。
「あのさあ。こんな話聞いて、ホントに楽しい?」
 わたしの問いには答えず、由井くんはわたしのことをギロッと睨んだ。

 あーもう、絶対おかしいって思われてるよね。

「あのね…………実はわたし…………小説家になりたいんだ」
 膝の上でぎゅっとこぶしを握りしめると、わたしは意を決してそう切り出した。
「恋愛小説を書きたいんだけど、恋なんか今までに一度もしたことないから、よくわからなくって。だから、いろいろ教えてほしいなーって思って」
 一気にそう言いきると、しばしの沈黙が流れた。
「だったら、してみる?」
 そう言うと、由井くんがどんどん顔を近づけてくる。

 このままだと本当にくっついちゃうよ!?

 逃げることもできずイスに座ったまま固まっていると、10センチくらい手前のところで由井くんはぴたりと止まった。