マイ・スイート・チョコレート

「小原、吉岡とは連絡取れたりするか?」
「え?」
「昨日仲良さそうに話していたから、もし、連絡取れそうなら、今日の課題届けてもらおうかと思ったんだけど」

先生は申し訳なさそうな顔をしてこちらを伺うから、あたしも困ってしまった。

「あの、あたし沙良ちゃんとは全然まだ友達じゃなくて、届けるって言っても家も連絡先も分からないので……」
「そう……だよな。わかった。ごめんな、無理なこと頼んで。授業始まるから教室に入ろう」

刈谷先生はプリントをしまうと、教室のドアを開けた。
あたしは自分の席に着くと、窓から外を眺めた。
今日も晴れて空は青く澄んでいる。

沙良ちゃんは明日来るだろうし、一日くらい課題をサボったとしても、きっと、絶対頭良さそうだから全然大丈夫だろうし、明日は必ずもっと話して仲良くなろう!


「……はぁ」

全ての授業が終わって、あたしは深いため息をついていた。ノートも教科書も出しっ放しでそのままそこへうつ伏せた。

もう無理。
やっぱりついていけない。
授業が分からなすぎてあたしの頭はパンクしていた。

しばらくそうしていると、周りのみんなは帰り始めて、人気なくなった。
楓のあたしを呼ぶ声はまだ聞こえてこない。

カタン

隣の机になにかを置く音が聞こえて、あたしは顔を上げた。

「……あ! 沙良ちゃん!」
「おはよう。って言っても、もう午後だけどね」

相変わらず綺麗な笑顔で微笑むから、あたしは見とれてしまう。

「先生から電話が来て、課題を取りに来なさいって。学校休んでるのに課題取りに来させるってほんとヤバイよね、この学校」
「沙良ちゃん……。あたしなんて課題どころか授業もヤバイよ」

半泣きであたしは訴えていた。

「ねぇ、今から時間ある?」
「え?」
「話したいことがあるんだけど、秘密の場所教えてあげるから、一緒に来てくれない?」

「……秘密の……場所?」

にっこり微笑む沙良ちゃんに、あたしは首を傾げる。
と、同時に楓からのラインが入った。


ごめん、今日用事あるから先帰ってて


あたしはオッケースタンプをすぐ様送ると、沙良ちゃんに向き直った。



「こっち」と、沙良ちゃんの言われるがままに、あたしは付いていく。学校の昇降口から靴を履き替えて外に出ると、正門には向かわずに裏側に歩き出す。

桜の木の並ぶ正門とは変わって、こちらは緑が青々と枝を渡り、石畳の上はトンネルのようになっていた。
葉の隙間からキラキラと差し込む日差しが心地よい。

「きれい」

あたしが呟くと、沙良ちゃんは側にあった大きな石の椅子に腰かけた。

「どうぞ」

あたしにも座るように示された手が細くきれいで、あたしは何故か「はい、失礼します」 と、敬語になってしまった。

「ふふ、千夜ちゃんって面白い」

沙良ちゃんが笑って言うから、あたしは恥ずかしくなる。

「ごめんね、こんなとこまで連れ出しちゃって」
「ううん、すっごくステキな場所! 確かに秘密の場所って感じ」
「ありがとう、そう言ってもらえて嬉しい。学校の人ならみんな知ってるのかもしれないけどね」

そう言って緑に囲まれた青い空を見上げて、深呼吸をする沙良ちゃん。

あたしも空を見上げた。
訳の分からない授業を受けるより、ここにいて空を見上げていられたらどんなに良いだろう。
あたしはつい現実逃避をしたくなる。