マイ・スイート・チョコレート



次の日、なぜか沙良ちゃんの事が気になって眠れなかった割には、朝もスッキリ目が覚めて、あたしは昨日よりも余裕をもって学校へ行く事が出来た。
楓が教室に入ると、あたしは自分の教室へと急いだ。


教室にはまばらに生徒がいるが、沙良ちゃんの姿はない。自分の机にカバンを下ろすと、隣の席を見る。

まだ来た形跡はなさそうだ。
机は綺麗になにも置かれていないし、椅子もしっかり収まっていた。

チャイムが鳴って、担任が教室に入ってくる。
やっぱりあの時いたのはこの人だ。

あたしは担任の刈谷 悠(かりや ゆう)先生をじっと見る。すっきり耳を出して整えられた髪に、メガネに少し触れるくらいの前髪。好青年という言葉がぴったり当てはまるその姿は、とても女子生徒を泣かせるような感じには見えない。


結局、沙良ちゃんは学校へは来なかった。


ー昼休みー

「千夜、学食行こーぜ」
「もちろん、沙良ちゃんも一緒に~……」

楓が圭次を連れて廊下から呼ぶが、圭次は沙良ちゃんがいない事にすぐに気がついた。

「あれー? 沙良ちゃんは?」
「今日はお休みみたい」
「まじかぁ~、俺何の為に学校来たんだよー」

絶望に立ち尽くす圭次に、呆れる楓とあたし。
もちろんクラスのみんなも同じく呆れている。

お昼は学校内にある食堂で食べる事が出来る。

白い壁に木目の床、ガラス窓のテラスから外の桜が一望でき、高級レストラン並みの広く綺麗な食堂はこの学校を選ぶ第1基準にもなり得るほどだ。


あたしは受験に精一杯でこんなにステキな場所があるなんて微塵も知らなかった。


「すっごー、ここで毎日お昼食べれるなんて凄すぎる! わ~! どうする? どれにする?」

はしゃぐあたしが隣の男2人を見ると、

「選べないからとりあえず食えるだけ頼もーぜ!」
「賛成!!」


ピピピピっと券売機を押しまくる2人に、もはや何も言えずに空いている席を探して座った。
ちょうど窓側の真ん中の席が空いていて、外の景色にうっとりする。

地獄のような受験勉強の日々から一転して、こんなステキな高校生活が待っていたなんて。

なんだか夢のよう…。

ピンクの桜の花びらが開いていた窓の隙間から入り込んで来て、あたしのテーブルの上に舞い降りたのを見て、ふと、現実に戻った。

テーブルには食べきれるのかと思うほどの料理が並んでいる。

「……楓はほんと食べるよねー。それなのにそのスタイル羨ましいわ」

あたしがモリモリとカレーを頬張る楓に言うと、食べるのをやめずに

「まだまだ育ち盛りなんだよ。身長も伸びてるしな! 千夜もいっぱい食えよ」

スプーンで目の前のカツ丼を指されて、あたしはため息をつく。

「千夜はもう成長止まってんだろ? 食べたら太るだけだかんな、これは俺が食べよう」

そう言って圭次がカツ丼のどんぶりを持っていこうとするから、あたしはその手を払いのけた。

「いーの、食べるの!」

あたしはカツ丼に食らいついた。

「千夜はそーじゃなくちゃ!」

楓はそう言ってニコニコしてあたしの食べる姿を喜んで見ている。

お昼休みも終わる頃、あたしは教室に戻る途中、担任の刈谷先生に呼び止められた。