マイ・スイート・チョコレート


入学式も無事に終わり、教室に入るとあたしは自分の席を探した。なんなくそれを見つけるとすぐ様、隣の席の子に目がいく。

サラサラの髪を高い位置でポニーテールにして、横顔からでもはっきりとわかるほどに目鼻立ちが整っていて、あたしの中では絶世の美女だった。

そんな彼女に見とれていると、その視線を感じたのかこちらを向いて微笑んでくれる。
その綺麗な笑顔に完全にキュンと心臓をつかまれてしまう。あたし、男だったら惚れてる。いや、男じゃなくても惚れちゃう。


「あたし、吉岡沙良(よしおかさら)。よろしくね」


柔らかい口調でそう言われて、キュンキュンが止まらないままに、あたしも一人で焦って照れながらも笑顔を返した。

「小原…千夜です。よろしくね」

話すと柔らかだけど、見た目の綺麗さからかクールな印象もあって、あたしはそれ以上話す言葉が見つからなかった。

担任の先生が教室に入ってくると、騒ついていた教室は静かになった。


残念ながら楓とはクラスが別になってしまって、周りの知らない顔に人見知りをしながら時が過ぎていった。あたしの大親友は彼氏を追って別の高校へ入学してしまったし、それ以前にこの高校には入れませんとお断りされてしまったから、ほんと、楓がいないとダメなんだなぁってつくづく思ってしまう。


明日からさっそく勉強本番が始まるし、あたしに楽しい高校生活なんてあるのかしら?

そんな物思いにふけっていると、隣の沙良ちゃんが声をかけてくれた。

「千夜ちゃん、なんでここの高校を選んだの?」
「え?」

最初の質問にしては答え辛い事を聞いてくる。
だけど、あたしは正直に話すことにした。



「へぇ、幼なじみがいるんだぁ、仲がよくていいね。高校まで一緒に、しかも受験勉強までつきあってくれるなんて、よっぽど千夜ちゃんと離れたくないんだね。楓ちゃんって子」


今までの経緯を一通り話し終えると、沙良ちゃんはクールな表情を緩めて驚いた後にそう言った。

「ん?」
「ん? 楓ちゃん、クラスは一緒じゃなかったの?」

キョロキョロと周りを見回す沙良ちゃん。

「楓は男だよ。そして、残念ながらクラスは一緒じゃなかったの」

「え! 彼氏だったの? ごめん。てっきり女の子かと勘違いしちゃって」

「違う違う! 楓は幼なじみで彼氏とかじゃないから!」


あたしが笑って否定すると、廊下側の窓から名前を呼ばれる。

「千夜ー、帰るぞー」

周りはみんな帰り支度を始めていて、あたしは楓の呼びかけにハッとして立ち上がった。

「あ、ほら、あれが楓! ……と、その友達の圭次」

楓の後ろからぴょこぴょこと顔を出して教室の様子を伺う圭次の姿に、一応紹介しておく。


「残念だったなー、千夜。楓は俺と一緒のクラスのしかも隣同士だったんだぞ!」


あたしをあざ笑うかのように仰け反ってそう言う圭次を横目に、あたしは帰り支度をする。
圭次はズカズカと教室に入ってきて、千夜の席まで来るといきなりピンッと姿勢を整えた。


「な、なに、この絶世の美女!」


圭次は沙良ちゃんを見るなり、唐突に叫んだ。
教室にいたみんなから注目を浴びているが、そんなこと御構い無しに、圭次は沙良ちゃんの隣の空いている席に座り、にこにこし始めた。


あたしは良からぬことしか思い浮かばずに、呆れて楓の元へと進んだ。

そーだよね、あたし、圭次と同じレベルだった。
あたしが沙良ちゃんに惚れて、圭次が惚れないわけないよね。ごめん、沙良ちゃん。
あたしには圭次は止められない。


「一目惚れってあるんだなぁ。マジで。俺と付き合って!」


絶世の美女発言から数秒だよ。
分かってたけど、早すぎでしょ。


「ごめんなさい」


って、えええぇ!!!


瞬殺!!


「あっははは! 圭次まじやばい! 瞬殺ー! すげーな、おまえ。新記録じゃない?」


一部始終を見ていた楓がとうとう吹き出した。


「さ、帰るぞ。チョコシュー買ってやっからな、泣くなよ」
「それ、おまえの好物だろー」

圭次の肩を掴み、楓はそのまま圭次を廊下へと引きずり出した。


「沙良ちゃんごめんね、あいつちょっと変なやつなの。また明日ねー」


あたふたとするあたしにクスクス笑ってくれる沙良ちゃんに手を振ると、楓の後ろを付いていく。


「おまえ、明日っから有名人になれるぞー。いいなー」
「うるせー、傷心の俺をなぐさめろ!」

「圭次が沙良ちゃんに惚れるの無理ないよー。あたしだってキュンキュンしたもんー」

「沙良ちゃんって言うのかぁ……、可愛いなぁ、明日また会いに行こう!」


傷心はどこへやら、その立ち直りの早さが圭次の長所でもあり、短所でもあるところ。