「…で、なんでこーなるんだろーねー?」

傘をさして歩く三人。

圭次は一人楓の傘を持って、前を行くあたしと沙良ちゃんに訴えた。


「だって、折りたたみ傘に圭次と沙良ちゃんが入れるわけないでしょ。態度も図体もデカイんだから」

あたしは沙良ちゃんの傘に入れてもらっていた。
納得がいかずに圭次は騒いでいる。

「うっせー、あぁ俺ってほんと可愛そう」

そんな圭次を見て、沙良ちゃんはクスクス笑っている。

駅に着くと、圭次は傘を閉じてあたしに渡してくれた。

「ほら、あと家まではちゃんと使えよ。せっかく楓が貸してくれたんだから。あいつ多分濡れて帰ったぞ。じゃあな。まったね~、沙良ちゃん!」

「待って、あたしもそっちだから」


圭次が行こうとすると、沙良ちゃんが呼び止めてそう言った。

「え! ……まじ、一緒に帰れんの?」
「……降りたあと傘、必要でしょ? 」
「沙良ちゅわん」

涙を拭って圭次は喜んだ。

「沙良ちゃん、いいんだよ、こんなやつほっといても」
「ううん、大丈夫。千夜ちゃんも、もし話せるなら楓くんとちゃんと話した方が良いと思うよ」
「……うん」
「じゃあ、また明日」

2人に手を振ると、あたしはちょうど来た電車に乗り込んだ。

あたしは座って持っていた楓の傘を見つめた。


ーーーー

「千夜ちゃんって、楓くんの事好きなんだよね?」

圭次と電車に乗り込んだ沙良はそう切り出した。
車内は比較的空いていて、圭次と沙良は余裕を持って座ることができていた。
圭次は深くため息をついた後に、話し始める。

「沙良ちゃんから見ても、そう思うよな。俺は楓がずっと千夜の事好きなのは知ってるんだ。あいつ真面目だし、そう言うの隠せないやつだから。ただ単に幼なじみがここまで一緒にいないって。

それに対して千夜だよ。鈍いどころの話じゃない。

今まで散々見てきたから、千夜がちゃんと自分を見てくれるように頑張らないとって楓は毎回言うんだ。

その度に気づかない千夜に俺は腹を立ててるってわけ。

結局、千夜が楓の事をどう思ってるのかは不明だよ」

圭次が最後は諦めたようにそう言うから、沙良は少し考える。

「付き合っちゃえばいいのに」

軽々しくそう言う沙良に、圭次は「いやいや」と言って続けた。

「俺もそれ、何回、何十回も言ったよ?

でもさ、その曖昧な感じにするのは楓が嫌なんだろうな。ほんと、めんどくさい奴らなわけよ。俺なんて、好きだと思ったらすぐ言っちゃうのにさー」

圭次はそう言って沙良のことをにっこりと見つめる。

「……圭次くんには悪いんだけど、

あたし、今恋愛したくなくて。

……でも、千夜ちゃんの事は力になってあげたいと思ったから、今日は一緒に帰ってきたの」

そう言うと、ちょうど沙良は降りる駅に着いた。

「これ、使って。あたしの家すぐそこで濡れないで帰れるから」

沙良は圭次に自分の傘を渡すと、足早にホームへ降り立った。一度振り返って手を振る姿に、圭次は眉を下げて笑った。


ーあたし、今恋愛したくなくてー


「なんか、今の言葉。すげー重かったな……」

圭次はそう呟いて沙良から渡された傘を握った。