「…楓がね、自立する為にってバイトを始めたんだけど、だったらあたしも楓を頼っていられないと思って、楓離れするって言ったんだよ。

そしたら、なんでか楓怒っちゃって。バイト先も教えてくれないし、その後はあたしの事避けるような行動とるし、意味がわからなくて」

あたしは「……はぁ」と深いため息をつきつつ、サラダのブロッコリーをフォークで刺して口へ運んだ。

「んー……何か他に怒らせるような事言わなかった?」
「え……」

沙良ちゃんの問いかけに、あたしは頭の中で今までを振り返ってみるけど、浮かぶのは楓の笑顔とかチョコレートケーキとかで、最後に怒った楓の顔がまた浮かんできて、首を振った。

「分からない……」
「……そっか」

あたしがまたため息をつくと、沙良ちゃんは静かにそう言って、ランチを食べ始めた。

外はシトシトと雨が降り始める。

午後からは本格的な雨になってきて、あたしは教室の窓から外を眺めていた。

「千夜ー!」

不意にそう呼ばれて、あたしは楓だと思って振り返ると、ズカズカと圭次一人が教室に入ってきて、あたしの席に座った。

「おまえ、楓となんかあっただろ?
朝早くからモーニングコールはくるわ、すぐ学校に来いって言われるわ、かと言って別になんも面白い事もないし、昼は沙良ちゃんに会いに行こうとしたら止められて、なぜか教室で弁当だし」

お弁当?

あたしは今朝のママのご機嫌が良かったことを思い出した。ママは楓に頼りにされるのが一番嬉しいんだ。

あたしの分はなかったんですけど?

「なにより、千夜が全然楓に絡んでこないなんて気持ち悪すぎだろ! どーした?」

一方的に喋り続ける圭次は、最後は呆れたようにあたしに問いかけてくる。

そりゃ、これまで一日だって楓と会わないなんて日はなかったから、あたしだって今日一日が宙に浮いてるんじゃないかってくらいにふわふわして、よく分からなかった。

「楓が勝手にあたしから距離を置くって言ったんだよ。昨日の午後から全然会ってないし、あたしだってなんか……変な感じなんだよ」

教室にはもう残っている生徒はいなくて、あたしがそう呟くように言うと、圭次はしばらくびっくりした顔をしていた。

「……マジで、楓がそう言ったのか?」

いつものトーンからかなり低いテンションで圭次はそう言うから、あたしは頷いた。

「どーしたいんだよ、楓は」

そう言って立ち上がると、圭次は出口に向かう。
それと同時に沙良ちゃんが教室に入ってくる。

「あー! 沙良ちゃん!!会いたかったよー! 今日は会わないで終わるかと思ったー! で、俺と……」
「ごめんなさい」

圭次が言い終わる前に、沙良ちゃんは頭を深々下げてそう言った。

「俺、まだ何も……」

シクシクと悲しむ圭次に沙良ちゃんは笑う。