次の日、「いってきます」の言葉と同時にあたしは目を覚ました。

まだ眠い目を擦りながら時計を確認すると、いつも起きる時間と変わりはない。
準備をして下に降りていくと、ソーセージの焼ける良い匂いがして、またしてもママはご機嫌だ。

「…もしかして、もう楓行ったの?」
「あら、おはよう千夜。楓くんも大変よね、先生に朝早くから用事を頼まれていたみたいで、千夜より先に行くって。千夜には言ってあるから心配しないでって言われたけど、起きてきて良かったわ。遅刻しないで行きなさいよ」

そう言いながら、ママはキッチンに姿を消した。

聞いてない。
そんなのなんにも聞いてないんですけど。

あたしはママの言葉に昨日の怒った楓の顔を思い出す。

ー明日から距離置くからー

昨日の夕飯も結局うちでは食べなかったし、

あたしが楓離れするって言ったから?
それで突然に?
あたしの事たださけてるだけじゃない?

あたしはご飯を無言で食べると、支度を済ませて家を出た。

1人で歩く道は、なんだか広いし、駅までってこんなに長かったっけ?
電車に乗るのがこんなに楽しくないなんて。

でも、慣れなくちゃ。
楓がいなくても、あたし1人でなんとか出来るようにならなきゃ。

ため息と同時に学校に着いたあたしは、教室に入ると深く椅子に座り込んだ。

「おはよう、千夜ちゃん。どうしたの? 元気ない?」

あたしが沈んでいる様子を見つけて、沙良ちゃんが、駆け寄ってきてくれる。

「あ、おはよう。大丈夫だよっ、気にしないで」

あたしは焦って顔を上げると、笑ってみせた。

なんとか課題はこなせるものの、やっぱり授業で習う新しいことがなかなか頭に入ってこなくて、集中が切れる度に楓の怒った顔を思い出してしまう。

すぐ隣の教室にいるはずなのに、会わないと思えば会わずに済むんだ。

それってなんか、寂しい。

授業が終わってお昼休み、沙良ちゃんに誘われてあたしは学食に来ていた。

「今日は一緒じゃないのね、楓くん」

無意識にあたしがキョロキョロとしているから、沙良ちゃんがそう言いながら、あたしの分のトレーを差し出してくれて、あたしはそれを受け取った。

「どーしたの? あんなにずっと一緒だって言ってたのに、突然。何かあったよね? あたしでよければ話聞くよ。この前はあたしが話聞いてもらったし」

沙良ちゃんはそう言って注文したランチセットを受け取ると、先に席を探して座って待っててくれた。
あたしも同じくランチセットを運んで、沙良ちゃんの隣に座った。
外は予報通りに雲が広がってどんよりと曇り空になってきた。