「やっぱり千夜ちゃんに話して良かった。ありがとう。一方的に連れ出したり話聞いてもらったり、色々勝手でごめんね、こんなあたしでも良かったら、友達になってくれませんか?」

そう言って満面の笑みであたしの方を向いて立ち上がる沙良ちゃんに、近寄りがたいクールな印象はどこにもなくて、あたしは全身で返事を返した。

「もちろん!!」

しばらくあたし達は時が過ぎるのも忘れてそこで他愛もない話をしていると、スマホが鳴った。

着信は楓。

「もしも……」
『千夜! どこに居たんだ?! まだ帰って来てないよな?』

あたしが言い終わる前に向こうから、楓の大きな声が聞こえてくる。
あたしはびっくりして耳からスマホを離した。

「楓、声がでかいよー。まだ学校にいたけど……って、もうこんな時間だったんだ!」

あたしは茂みの中でも一際目立つ、一本飛び出した背の高い時計を見て、今が5時半だという事に気がついた。日は確かに傾いているけど、まだまだ青空は夕焼けには染まっていない。

『心配すんだろーが、迎えに行くから待ってろ』
「え!大丈夫……って、切れちゃった」

あたしはスマホをしまうと、沙良ちゃんに向き直った。

「ごめん、楓が来るって。正門まで行かなきゃ」
「うん、じゃあ、あたしは先生のとこに行って課題もらってあと帰るね。楽しかった、また明日」
「うん、あたしも。また明日ね」


あたしは沙良ちゃんに手を振ると、正門に急いだ。
あれから数分しか経っていないのに、あたしよりも先に楓は正門前に居た。

「楓~、早すぎでしょ。あたしより先に居るって」

あはは、とあたしが笑いながら駆け寄ると、楓は眉を下げてホッとしたように笑った。

「千夜の事だから、俺が居ないと帰り方もわかんないんじゃないかと思ったよ。あんまり心配させんな」
「何それー、あたしそこまでバカじゃないからね。それよりね! 沙良ちゃんと友達になれたのー」

楓の心配をよそに、あたしは沙良ちゃんとの出来事を家に着くまでずっとしゃべり続けた。
楓はそんなあたしに、そーかそーか、と頷いて聞いてくれた。

本当は、楓も何か話したいことがあったのかも知れないけど、その時のあたしは沙良ちゃんとの事がすごく嬉しくて、舞い上がっていて、楓の変化には気がついていなかった。