「申し訳ありませんが、私は心が狭いので、陛下と言えど彼女が他の男と言葉を交わすのが非常に気に入りません。なので私を通して頂ければ嬉しいのですが」



 きっぱりと、テオフィルを目の前にしてアルベールは言い切った。あまりに堂々とした物言いに、テオフィルの方が呆気に取られた顔をしている。何を言われたのか分からない、というような顔で。

 「アルベール様……!」と、さすがにカミーユは声を上げて彼の腕に触れた。実は先ほどから、アルベールは他の貴族たちにも同じような態度を取っていたのだ。それもこれも、カミーユが男性を恐れる為の方便なのだとは理解していたけれど。まさかいくら知己だと言っても、国王であるテオフィルにまで同じような態度を取ろうとは。

 カミーユに呼ばれたアルベールは、いつものように微笑みながら「どうかしたか? カミーユ」と訊ねてくる。
 どうかしたも何もないだろう、と思うのだが、アルベールの当然のような態度に言葉を続けることを躊躇った。彼がテオフィルに対してあのような言動をするのは、当たり前のことなのだろうかと思ってしまったから。



 あまりにも堂々としていらっしゃるし……。私が社交界にあまり出ないから、知らないだけなのかしら……?



 困惑しながらアルベールを見上げていたら、「まあ、そう言うだろうとは思っていたが」と、僅かに苦笑を交えたような声が聞こえて来てそちらに顔を向ける。

 テオフィルはその端正な容貌に困ったような色を浮かべて、こちらを見ていた。



「我が従兄ながら、本当に心が狭くて申し訳ない、カミーユ嬢。本当に申し訳ない、のだが……、どうか、彼を見捨てないでやって欲しい」



 テオフィルはそう、真摯な表情で言った。



「この男は、君から捨てられたら、もう二度と誰とも結婚するなどと言わないだろう。君が他の誰かと結婚し、幸せになったとしても、だ。……脅すわけでも、命令でもない。ただ、幼い頃からの友人として顔を合わせて来たが、彼がこんな風に笑みを浮かべるのを初めて見たから。……堅物で真面目で面白味もない男だとは思うが、どうか幸せにしてやってくれ」



 ふっと笑みを零してテオフィルが言うのに、アルベールがぼそりと「俺はカミーユの傍にいるだけで幸せだから、今後幸せにしていくのは俺なのだが」と呟いていたけれど。
 カミーユはただ、テオフィルの言葉に深く頷き、「もちろんです」と応えた。

 誰に言われるまでもなく、自分に出来ることならば、少しでも彼を幸せにしたかった。