装飾がないとはいえ、こんなに高価なドレスだからと思ったのだけれど。着られている感じではなくて、守られているような、そんな風に感じるわ。……アルベール様の色だからかしら。



 思うも、まるで恋に浮かれた令嬢の惚気のように感じて、慌ててその考えを振り払った。誰に何を言われたわけでもないのに、なぜかとても恥ずかしかった。




「それでは、ブラン様がお待ちですので戻りましょうか。あまりカルリエ様を引き留めてしまうと、私が怒られてしまいそうですから」



 試着したドレスを再びトルソーへと戻し、自らの服に着替え直したところで、冗談交じりに店主がそう微笑んだ。「そんなことはありませんよ」と言って笑い返し、二人で扉の方へと向かう。

 案内するように先を歩いていた店主が、試着室の扉を開いた時だった。
 「何であの人なのかしらね」という、ひそやかな囁き声が廊下から聞こえて来たのは。



「英雄閣下はあんなに素敵な人なのに、相手があの程度なんて。もっと位が上の令嬢もいるでしょうに、もったいないったらないわ」



「私たちがドレスを作って来た令嬢の方々は皆、あの人よりも素敵だったわ。美しさも仕種もセンスも、絶対にあの人よりも上だったのに」



 聞こえて来たのは、明らかに自分とアルベールの話。要は釣り合わないと言いたいのだろう。自分と彼は、その容姿でも、家柄でも。

 店主が慌てて飛び出そうとするのを止めて、カミーユはゆっくりと首を横に振った。彼女たちの言い分に、間違ったところなど見当たらないから。



 何よりも、私自身がそう思うのだもの。他の方たちがあまり口にしないから少し気持ちが悪かったのだけれど、ああいう陰口を聞くと、むしろほっとするわね。



 気分が良いわけはないのだけれど。自分の考えがおかしいのではないのだと、そう思えた。あくまでもあれが、一般的な意見なのだと。

 しかし、だ。



「やっぱり、英雄閣下は女を見る目がなかったのね。今になって慌てて選んだんでしょうよ」



「英雄って言っても、全てが完璧ってわけじゃないんでしょうね」



 くすくす、くすくすと笑い合う声。
 その対象が自分であったから、気にするほどのことでもないと思ったのだ。この場で自分に償うために酷く罰せずとも、後ほど注意すれば良い程度だと、店主を止めもしたわけだが。