「ふふ。相変わらず、仲がよろしいようで。閣下、そろそろカルリエ様にドレスの試着をして頂きたいのですが、お借りしてもよろしいでしょうか?」



 店員たちと話していたブティックの店主の女性が、からかうような調子でそう声をかけてくる。この店には、公爵夫人のティーパーティの後、アルベールに王宮で行われる舞踏会へパートナーとして参加して欲しいと告げられて、その翌日に訪れたわけだが。

 オーダーメイドでのドレス制作が始まり、この店に足を運ぶ度に同じような会話を繰り返しているため、彼女はすでに慣れた様子で二人を見ていた。最も、この店は元々ベルクール公爵家が懇意にしているらしく、カミーユと共に現れたアルベールの様子に、最初はかなり驚いている様子ではあったが。

 普段のアルベールの姿を思えば、当たり前のことだとカミーユもまたそう思っていた。



「すまない、時間を取らせてしまったな。カミーユ、試着してくると良い。気に入らないところがあれば、遠慮なく伝えてくれ。舞踏会まではまだ時間があるから、直せるだろう」



 アルベールの言葉に、店主に確認するよう顔を向ければ、彼女はにこやかな笑顔でこくりと頷いていた。問題ないということだろう。

 ドレスの製作に入る前にかなり細かく打ち合わせをしたので、衣装その物に問題はないと思うけれど。着心地などの問題はまた別なので、もしもの時に手直しする余裕があるのはとても有り難かった。



「ありがとうございます、アルベール様。行って参りますね」



 ソファから立ち上がり、店主の後を追って廊下を進んで、試着用の、というには広い部屋に入る。トルソーにかけられた試作段階のドレスは、しかし高級ブティックらしく生地や糸に至るまで、全て完成品と同じ物のようだった。

 アルベールの瞳の色を写しとったような深い藍色と、髪色によく似た淡く輝くような銀色の布地。形や装飾は全て店主やカミーユの好きなようにと言っていたアルベールだったが、色だけはこれが良いと譲らなかったのである。

 店主はとても楽しそうな顔をしていたし、カミーユ自身もその一途さが真っ赤になるほど恥ずかしかったのだが。
 それ以上に、彼の色を纏って欲しいと望まれたことが、何よりも嬉しかった。



「どうです? 着てみて、どこかおかしいと感じた所はございませんか?」



 店主や店員の手を借りて試作品のドレスを身に着け、姿見の前に立つ。店主の言葉に、「いいえ、問題ないですわ」と、カミーユはその左右に首を振った。

 元々、ドレスを試着するためにこの場に訪れたために、髪形もそれほど凝った物ではなく、化粧も薄いままだけれど。
 そのドレスは、まるで寄り添うように、カミーユの身体を覆っていた。