ベルクール公爵夫人のティーパーティーが行われた日から、二週間が経っていた。

 王都でもごく限られた貴族にしか依頼できないと言われている最高級のブティックの扉をくぐり、カミーユは相変わらずの場違い感に、そわそわと落ち着かないでいた。

 本来ならば、屋敷の方へとブティックの店員を呼び寄せるのが普通なのだが。どうせならば到着するまでの道のりを共に過ごしたいというアルベールの希望により、彼と二人で店の方へと赴いたのであった。

 応接用のソファに腰掛け、不躾にならない程度に周囲を見回す。トルソーにかけられた沢山のドレスは、それぞれが誰かのために作られたオーダーメイド。同じ意匠の物など一つもなく、その繊細な装飾に目を奪われる。美しいと、溜息が零れた。



「何か、気に入ったドレスがあっただろうか?」



 聞こえた声に、はっとそちらに顔を向ける。カミーユの隣に腰掛けていたアルベールは、いつも通りその綺麗な顔に優しい笑みを浮かべて、こちらを見ていた。



「どのドレスも、君に似合いそうだ。気に入った物があれば、いくつか注文しておこう。今度の舞踏会用のドレスはもう決まっているが、また別の機会もあるだろうから」



 「もちろん、私に着て見せてくれるだけでも嬉しいが」と続けるアルベールに、カミーユは慌てて首を横に振る。まるで冗談のように言うが、彼が本気だということをカミーユはすでに理解していた。



「とても嬉しいですが、ご遠慮いたします。今回の舞踏会のドレスの完成がとても楽しみですもの。それを見てからでも遅くありませんから」



 さらりと告げた断りの言葉は、もう何度も口にしたもの。アルベールは今日も今日とて、残念そうに「そうか」と呟いていた。

 そもそも、このブティックだけでなく、宝石店や靴屋、手芸店や雑貨屋、本屋に至るまで、どこに行ってもカミーユが視線を向けた物全てを買い与えようとするものだから。最初こそ遠慮がちに断っていたのだが、これはきっぱりと言わねば伝わらないと、断りの言葉を口にするようになったのである。

 まあ、だからと言って彼が懲りるわけでもなく。毎度毎度、カミーユに何かしらを買い与えようとしているが。



「欲しい物があったら、遠慮なく教えて欲しい。君が欲しい物は、全て贈りたいんだ」



 そんな風に微笑む彼を、店員たちはどこかうっとりとした視線で見つめているけれど。カミーユにはそんな彼の姿が、どこか不安そうに見えた。
 まるで、何かで引き留めておかなければ、カミーユがどこかに逃げ出すのではないかと、そんな風に思っているようで。

 さすがに考え過ぎだろうかと、口に出すことはなかったけれど。