もともとベルクール公爵邸が、他の貴族の屋敷と比べても素晴らしいというのは聞いたことがあったけれど。それほど交流があったわけでもないため、前の道を通ることはあっても、ここまで近づいたことがないのである。
 敷地が広く前の道からは距離が有り、美しい庭の木々に視界を遮られていることから、敷地外から屋敷の全容を目にする機会はないに等しいのだ。



「何代か前の当主に嫁いだ王女が、このような巨大な屋敷に建て替えたそうだ。その前の年に起きた戦争で、ベルクール騎士団が成果を挙げたため、労う意味もあって屋敷内の一角が騎士たちの宿舎となっている。ベルクール公爵家は騎士の家門。度を越した芸術趣味の方だったらしいが、騎士たちのためになるならばと、当主たちも特に反対しなかったため、このような様子になったらしい」



 隣を歩くアルベールが解説してくれるのを、なるほどと頷きながら聞く。確かに、同じ騎士の家門として、成果を挙げた騎士たちへの労いというのは理解できるのだが。そのあまりの規模の違いに、呆然とした心地になるのは仕方がない事だと思った。

 だからこそ、アルベールが何でもないような顔で、「いずれはカミーユもここに住むことになる。そのうち慣れるだろう」と微笑みかけて来たのには、何と返して良いか分かるはずもなく。ただ曖昧に笑うしかなかった。

 今更ながら、彼に想いを伝えて本当に良かったのだろうかなんて、少しだけ思ってしまったのは秘密である。

 ティーパーティは、建物の裏手にある庭で行われるらしく、アルベールのエスコートに従って歩いて行く。当たり前だが、この屋敷で生まれ育ったアルベールが迷うことなどあるはずもなく。何の躊躇いもなくその廊下を進んで行った。



 ……? まただわ。私、何かしてしまったかしら……?



 屋敷の中を歩いている途中、カミーユはそう思い、何度も首を傾げていた。先程から、時折、仕事をする使用人たちと擦れ違うのだけど。彼らは一様にアルベールを見た後、カミーユの方へと視線を向けて、何故かその目をきらきらと輝かせた後で、深々と礼の形を取るのである。それも、出会う人、出会う人、全てなのだ。

 どうしたのだろうかと思うけれど、それを本人に聞くわけにもいかず、アルベールの方を見上げれば、彼はただ微笑むばかりで。一先ずカミーユも軽く会釈を返しながら、先を急ぐことにしたのだった。

 最初に見た時にも思った通り、あまりにも広い屋敷であるため、庭へ出るまでに随分と時間がかかってしまった。開け放たれた扉をくぐり、晴れやかな日差しの下に出ると同時に、楽しそうな女性たちの笑い声が聞こえてきて、少し驚いた。一人や二人ではなく、かなり大勢の人たちの声だったものだから。

 もしかして、と思ったのだ。



「……私、時間を間違えてしまったかしら……?」