女性の色を身に着ける場合、『この女性の虜である』という意味以外にも、恋人や婚約者、既婚者でなければ、『自分はこの女性に求愛中である』という意味を持っていたから。

 だからそれを駄目であるということはないのだけれど。本当にそれを身に着ける男性は、とても珍しいのもまた事実である。

 求愛中だが、まだパートナーになってもらえる程度で、求愛を受け入れてもらってはいないという風にも取れるため、矜持の高い貴族男性たちは忌避しがちなのである。

 大丈夫なのだろうかと思い、「他の意味も、ご存知ですか……?」と小さく訊ねるけれど。アルベールは数度瞬きをした後、にっこりと笑って「ああ、もちろん聞いた」と応えた。



「私が求愛どころか、求婚中であることは社交界中が知っている。それに、私が本気であることを皆が知ってくれれば、余計な手出しをしてくる者も減るだろうから」



 「丁度良いと思っている」とまで言われてしまえば、カミーユにはそれ以上、何も言えない。「それに」と、アルベールは少し嬉しそうに続けた。



「君の持つ色に包まれていると、気分が良い。私が、君のものになれた気がするから。だから、君が許してくれるならば、この服で共に過ごしても構わないだろうか?」



 穏やかな笑みを浮かべて言う彼は、とても幸せそうな表情で。自分の気持ちを自覚した手前、カミーユは言葉の内容にその顔を赤くしながら、こくりと一つ頷くに留めた。

 アルベールの乗って来た馬車で、彼の生家へと向かうために、二人揃ってエルヴィユ子爵邸の玄関をくぐる。
 今回のティーパーティは、主にアルベールの母であるベルクール公爵夫人の親しい友人たちが招かれているという。そのため、カミーユ以外の全てが既婚女性という話だった。公爵やその息子であるアルベールたちも参加しない、本当に女性だけのパーティであったらしいが、カミーユが心細くないようにとの配慮で、カミーユが参加する場合に限定して、アルベールの参加が認められたとのことだ。

 自分のせいでアルベールの時間を奪うことになったと聞き、思わず謝罪したカミーユであったが、とうのアルベールは特に気にした様子もなく、むしろカミーユと共に参加できると言って、楽しそうですらあった。