それほど長い時間を待たず、客人が来訪したという報告を受けた。
 珍しく、と言うべきか、約束の時間丁度に訪れたアルベールの姿を見たカミーユは、驚きのあまり何度も瞬きを繰り返す。正確には、彼の纏ったその衣装に。

 そのため、視線の先のアルベールもまた、カミーユを見て驚いたように動きを止めたことに気付かないままだった。



「ごきげんよう、カミーユ。……すまない、言葉に詰まってしまった。あまりに可憐すぎて……。今日のティーパーティの参加者が、女性だけで本当に良かった。そうでなければ、このまま閉じ込めてしまわねばならぬところだった」



 はっとしたように口を開いたアルベールは、言葉を詰まらせながらそう続けた。
 その内容に、「ご冗談を」と言って微笑むが、彼はむしろ驚いたような顔で「本気だが」と応える。

 けれど内容が内容だったので、やはり冗談にしか思えず。「そういうことにしておきますわ」とカミーユは返した。



「ごきげんよう、アルベール様。今日もとても素敵、なのですが。……あの、そのお召し物は……」



 触れて良いものかと悩みながら、おそるおそるカミーユはそう口にする。彼に似合わない衣装などあるのだろうかと思うし、今回のそれもまた良く似合っているのだけれど。

 問題は、その色合いである。

 カミーユのドレスに使われているものとよく似た淡い茶色の装いは、その端々にこれもまたカミーユのものとよく似た刺繍が細かく刺されている。

 つまり、カミーユの色に彩られた、カミーユのドレスと合わせたような衣装なのだ。アルベール自身が、カミーユの持つ色合いに染められた状態なのである。



 男性が女性に贈るドレスに、自分の色を使うのはよくあることだけれど、逆はとても珍しいのよね。



 パーティなどでパートナーを務める際、男性が女性にドレスを贈るのは一般的なことである。そしてそのドレスの色に、男性の持つ髪や瞳の色を使う場合、このギャロワ王国では、『この女性は自分の恋人だ』というような、牽制の意味合いがあるのだが。

 逆の場合は、当たり前だが、意味もまた逆になる。すなわち。



「ドレスを贈る時、自分もまた女性の色合いを身に着けるのは、『貴女の虜』という意味だと聞いた。その通りだと思ったから、そうさせてもらったが……」



 「いけなかっただろうか……?」と、少し困ったように訊ねられ、カミーユは慌てて「い、いいえ」と言って首を横に振った。