いつもよりも早い時刻に目を覚まし、食事を終える。数日前に受け取った贈り物のドレスに袖を通せば、眺めていた時には気付かなかった端々の繊細な意匠に、思わず息を呑んだ。



 やっぱり、なんて美しいドレスなんでしょう。



 落ち着いた色味のため、一見すれば少々地味に映るかもしれないが、赤にほど近い茶色の刺繍が細かく刺されており、動くたびにその糸の光沢できらきらと光る。派手過ぎず、そしてティーパーティを飾るには申し分ないほど華やかで。
 気分までも晴れやかになりながら、カミーユはアルベールの訪れを待っていた。

 今回ティーパーティが行われるのは、アルベールの生家であるベルクール公爵邸である。アルベールは現在、ミュレル伯爵として爵位を授かった際に受け取った別の屋敷に住んでいるらしいが、彼が主催の家族であることに変わりはない。

 そのため、カミーユは自らの家の馬車で会場に向かっても良いと伝えたのだが。アルベールは断固として首を縦には振ってくれなかったのだ。絶対に、自分がエスコートして連れて行くのだ、と言って。



 ……せめて、エスコートを自然に受けられるくらいには、ならないと。



 アルベールと約束した時間よりも少しだけ早い時間に玄関ホールに立ったカミーユは、ぎゅっと自らの手を握りしめながらそう思った。

 先日の、妹の婚約者であるジョエルを招いて開いた晩餐の席で、カミーユはアルベールに求婚されたあの日から、随分と変わった自分の気持ちに気付くことになったのだが。何となく口にしづらく、あの日から数日間、毎日顔を合わせてはいるものの、伝えられないままであった。

 そもそも、今更何と口にすれば良いのか分からないと言うのが本音である。

 アルベールの場合、素直に気持ちを伝えれば、それだけで喜んでくれそうな気もするのだけれど。結局、時機を掴めないまま、今日に至っていた。



 ただ気持ちを口にすれば良いだけなのに……。なんて難しいのかしら。



 妹のエレーヌには、難しく考えすぎなのだと言われてしまった。伝えなければ、とそればかりを考えすぎて、いつそれを口にすれば良いのか分からなくなってしまっているのだと。それならばいっそ、自然に口にしたくなるまで待ってみれば良いではないか、と。



「あのアルベール様のことだもの。そんな機会、きっとすぐに来ると思うわ」



 「それよりも、せっかくのティーパーティを楽しむべきだわ」と、エレーヌはあっさりと言った。

 確かに、妹の言うことは一理あるのだけども。アルベールは自分に想いを寄せてくれていると知っているというのに、自分は何も伝えないというのは、公平性に欠けるわけで。

 やはりなるべく早く言わなくてはと思いながら、何かに挑むような気持ちで玄関扉を睨みつけていた。