ベルクール公爵邸と比べれば少々見劣りするものの、広い敷地とそれを彩る美しく手入れされた庭園に囲まれた屋敷。バルテ伯爵邸。
 傾き始めた陽が差し込む、その表門の前に馬車を停めたアルベールは、寄って来た門番に窓を開けて来訪者の確認をさせた。途端、慌てたように門番の二人の男が、閉じていた門を開いていく。その間を、アルベールを乗せた馬車は進んだ。

 ゆっくりと動いて行く外の景色を見ながら、アルベールは深く息を吐いた。何で、自分は今こんな所にいるのか、と。

 本来ならば愛しい少女の屋敷で、晩餐までの間を彼女と二人、言葉を交わすことも出来ただろうに。



「カミーユが喜んでいたからこそ、処罰を甘くしたというのに……。恩を仇で返すとはな」



 甘く見るにもほどがある。



 思い、アルベールは頬を釣り上げて笑った。

 今朝方、出来上がったばかりのティーパーティ用のドレスを贈るために、エルヴィユ子爵家へと足を運んだ。彼女の喜ぶ姿を、一秒でも早く見たかったから。

 カミーユに似合うようにと考えながら、王都でも指折りの仕立て屋の者と議論を重ねたそのドレスは、パーティまでの日数の関係で、完全なオーダーメイドというわけにはいかなかった。

 それ自体は残念だったのだが、既存のドレスのサイズを調整する段階で、カミーユに似合うようにと考えに考えを重ねて、出来上がった物はそれなりに満足のいくものだった。

 ちなみに、議論を重ねてとは言うものの、ほとんどが仕立て屋の意見を取り入れた物である。残念ながら幼い頃から剣か、もしくはペンくらいしか握ったことのない自分には、女性のためのドレスをデザインするなど不可能であったから。

 昼の間は仕事へと戻らなければならない関係で、訪問するには少々早い時刻にエルヴィユ子爵家へと足を運んだ。贈り物を素直に喜ぶカミーユの姿に、気分も舞い上がっていたのだけれど。

 子爵家を出る直前に、彼女の父であるエルヴィユ子爵、バスチアンに呼び留められたのだ。「カミーユには見せていないが……。君には一応、見せておくべきかと思ったのだ」と。

 彼が差し出してきたのは、一枚の手紙だった。



「自らの立ち位置も理解できていないというのに、カミーユに対して『身の程知らず』と送り付けてくるとは」



 手にした手紙に視線を遣り、思いきり引きちぎりたい衝動に駆られるのを、軽く息を吐き出すことで押さえる。

 カミーユが望まなかったから、先日の件を公にすることをやめたというのに。他の者たちからは、彼女に感謝の意を示す手紙が届いたと聞いたが。



「どうやら、目に見える形での処罰をご所望らしいな」



 これでもう、三度目である。これ以上は、許すわけにはいかなかった。
 このまま放っておけば、いずれカミーユに害を為すのは目に見えていたから。