そんな二人の様子に申し訳なく思いながら、カミーユは「済んだことですから」と言ってまた苦く笑う。
 ジョエルはカミーユに顔を向けると、エレーヌと顔を見合わせ、困ったように笑って、「君は少し、優しすぎる」と呟いていた。



「君の男性恐怖症がなかったとしても、非常識なことをされたんだから、もっと怒って良いのに。……それにしても、閣下もさぞお怒りだったことだろうに、よく彼らの処分を軽くできたね。閣下は彼らを社交界から追放するつもりだったのに、君が止めたと聞いたけれど」



 続けられた言葉に、カミーユは思わずエレーヌの方を見遣る。まさかそこまで伝えていたとは、と。
 エレーヌは、カミーユの視線を受けて数度瞬きをした後、「結果としては、そういうことでしょう?」と呟いた。



「だって、次期公爵である英雄閣下が、『今後その人たちの参加している夜会などには一切参加せず、その人たちを招待した家と関わりを持つ気はない』って言い切ったんだもの。いくら伯爵家の人たちばかりだったって言っても、()()アルベール・ブラン様を排除してまで関わりたいとは誰も思わないわ。一番周囲への被害は少なくて、でも絶大な効果のある処分よね」



 「さすが英雄閣下だわ」と言うエレーヌに、カミーユもまたそれはその通りだと思った。この国には、どうにかしてアルベールと近付けないかと考えている貴族たちばかりだというのに、そのアルベールとの関わりを、伯爵家の子息子女との交流のためにむざむざ切ってしまう家など、一つも有りはしないのだから。

 その存在一つに、あまりにも絶大な権力を持つアルベールだからこそ、効力を発揮する処罰なのである。

 「私は、そのくらいの処分を受けても良いと思ったのに」と、エレーヌは少し残念そうに続けた。



「お姉さまは優しいから。ちょっとオペラハウスの人たちが気を遣ってくれたからって、処分を軽くなんて。……まあ、何となくそうなった理由も分からないでもないけれど」



 ぼそりと付け加えるエレーヌに、カミーユもまた苦笑する。傍から見ていたジョエルが不思議そうな顔をしていたので、カミーユは彼に説明するつもりで口を開いた。