その扉が開かれた時の気持ちを、誰か想像できるだろうか。
 カミーユは、ただただ驚愕するしかなかった。本当に。

 なぜ、今自分はここにいるのか、と。



「し、シークレットルームって、本当にあったのですね……」



 言葉に出来たのは、それだけだった。

 いや、薄々そうかもしれないとは思ったのだ。オペラハウスに入ってすぐに、客席へと向かうのではなく、今までその存在に気付くことさえもなかった階段の方へと向かう、支配人とやらの姿を見て。

 けれど、さすがにそんなことはないだろうと高を括っていた。もしそうならば、いくらベルクール公爵夫人といえど、チケットを譲ったりするわけがないだろうと。それなのに。

 アルベールはいつも通り柔らかい表情で微笑みながら、「ああ、ちゃんと存在しているようだな」と答えた。



 本当に欲しい答えは、そうじゃないのだけれど。



「この部屋ならば、君も安心してオペラを観劇できるだろう。母には感謝している」



 嬉しそうに言うアルベールに、カミーユは引き攣りそうになる顔を無理矢理笑みの形に変える。「本当に、感謝してもしきれませんわ」と言う声が、少しだけ上擦ってしまった気がした。

 と、支配人が再び扉を叩いて現れ、一人の女性を連れて来た。どうやらオペラハウスの従業員のようで、用聞きのためにシークレットルームの隣の部屋へ待機していてくれるようである。

 今となっては、アルベールの存在にも慣れてきていて。おかしなことをするような人ではないと、共に過ごして分かっていたけれど。
 それでも、男性である彼と二人にきりになるのは少しだけ怖かったので、カミーユにとっては嬉しい配慮だった。

 それにしても、それほど何度もこのオペラハウスを訪れたことがあるわけでもないカミーユであっても、この部屋の価値を知らないはずがない。王家や公爵家、限りない財産を持つ者にしか使えない特別な部屋なのだから。

 この部屋に入るためのチケットの値段など、普段から金銭を使うことに慣れていないカミーユには、恐ろしくて聞くことも出来なかった。



「……本当に、どうすればお礼になるのかしら……」



 ぼそりと、思わず口から零れる。当初考えていたお礼などでは、とても恩を返せそうになかった。そもそも、通常の席のチケットであっても、どうすれば良いかと悩んでいたというのに。