侍女に導かれて部屋に現れたその女は、こちらを見て一瞬だけ不思議そうな顔になった後、礼の形を取った。目上の者に対する、礼の形を。

 そこは、この屋敷の中で最も日の当たる、暖かなサンルーム。自分と目の前の女以外、誰もいないその部屋で、二人はテーブルを挟み、向かい合って腰掛けた。テーブルの上には、可愛らしい生菓子と、空のティーカップ、そして熱いお茶が満ちたティーポットが置かれている。

 見るからに平凡な女。変わった瞳の色をしており、整った容貌ではあるが、社交界で名を聞かれる者たちのような、一線を画すほどのものではない。あくまでも、平凡な女。

 それなのに、何で。
 何で、何で、あの方の傍にいられるのか。何で、それが許されるのか。

 あの方に相応しいところなど、何一つないくせに。



 ……全ては国王陛下の命令なのよ。この国のための、何らかの計画の一部。こんな平凡な女が婚約者だなんて、あの方も、迷惑してらっしゃるはずだわ。



 正式に聞いたわけでは、もちろんない。けれど、間違いようがないではないか。身分も、容姿も、威厳も、何一つとしてあの方につり合わないこのような女との結婚を、あの方が望んだはずがないのだ。

 それでも、国王の命令であれば、あの方が婚約を拒否することなど出来ない。だから。
 自分が、あの方のために。



「お招き頂きありがとうございます、トルイユ侯爵令嬢。先日は、サロンで助けて頂き、ありがとうございました。……あの、大事な話、というのは」



 「何なのでしょう」と問いかけてくる、会ったこともない女(・・・・・・・・・)に、白けた視線を向けてしまいそうになり、取り繕う。そんなことをしてはいけないのだ。自分は。浮かべる表情は、儚く、優美に。

 それでこそ、『幻の社交界の華』と呼ばれる、あの方に相応しい姿なのだから。



 この女、大事な話があると言われて来たのね。……でも残念。わたくしは知らないの。



 この女が聞かされるはずだった、大事な話など、何も。だって自分は、()()()()()()()()()()()()()()のだから。来ると聞いたから、少し手を回して会うことにしただけ。その方が、都合が良かったから。