ちなみにカミーユ自身は、ある程度形の決まっている、セミオーダーでも構わないと言ったのだ。それならば、完全なオーダーメイドよりは余裕が出来るだろうから、と。しかしアルベールがそれを了承するはずもなく、どうしてもと押し切られる形で今回のような形になったのである。

 アルベールの母であるロクサーヌにも、ドレスにそこまでする必要はないと、アルベールを説得して欲しいと頼んでみたのだが。



『大丈夫だ。あの馬鹿息子は騎士として剣を振るうことしか考えたことがないから、金の使い道を知らん。最近では、領地のことも少しは上手くやっているようだが、その程度。この機に溜め込んだ金を使わせた方が、カミーユさんのためにも、世のためにもなるだろう』



 はっ、と鼻で嗤うように言うロクサーヌに、頷くわけにもいかず。カミーユはただ笑みを返すに留めた。英雄と言われて、アルベールが誉めそやされるのを見るのが当たり前となっていたカミーユには、ロクサーヌの反応はとても新鮮な物だった。さすがは、親子である。

 そして肝心のアルベールはといえば、結婚式を正式に行うと決まった日から、一日に一度、顔を合わせる程度しか会っていなかった。結婚式の準備をするカミーユもあまり時間が取れず、アルベールの方も仕事など、色々と忙しいようで。

 毎日言葉を交わし、少しの時間でも共に過ごしていたのを思えば、淋しくもあったけれど。結婚すれば伯爵夫人となる上、アルベールとは同じ屋敷で過ごせるようになるのだと思えば、一層頑張ろうと思えるのだった。



「それに、結婚したら傍にいられる時間も増えるもの。公爵家や伯爵家、子爵家。何より、アルベール様に恥じないように、出来る限り頑張らないと……!」



 ぐっと掌を握り込んでアルベールにそう宣言すれば、彼は微笑んで頷いてくれた。その顔が少しだけ淋しそうに見えたのは、気のせいだっただろうか。

 ちなみに、それをロクサーヌに言ったところ、彼女はとても嬉しそうに笑っていた。『どこかの馬鹿息子と違って、羨ましいほどにしっかりした娘さんだ』と、彼女がアナベルに語ったことを、カミーユは知らないままだったが。