会場となっている、ベルクール公爵邸の大広間。結婚式の準備が進むそこも、一週間前となれば、随分と完成形に近くなっていた。

 元々、結婚式であれがしたい、これがしたい、というような希望も持っていなかったため、ほとんどがアルベールの母であるベルクール公爵夫人ロクサーヌと、カミーユの母であるエルヴィユ子爵夫人アナベルの発案であったが。
 趣味の良い二人が提案してくれた物の中から、カミーユが好きな物を選んでいく。そうして出来た会場は、想像していたよりもずっと神秘的で、厳かで。カミーユの好む落ち着いた雰囲気に包まれていた。



 ……そもそも、結婚するなんて思ってもいなかったもの……。



 結婚出来ないと、自分だけではなく、家族でさえも思ったからこそ、政治的な思惑の元に結ばれた、クラルティ伯爵家のジョエルとの婚約が解消されたのだから。人生とは、本当に分からないものである。

 ほとんど完成に近付いたウェディングドレスは、ギャロワ王国の結婚式では定番の深い藍色のドレス。王族の瞳と同じその色を身に纏うことで、正式に許しを得た結婚であることを周囲に示すのが、この国の伝統であった。

 そしてそれは、奇しくもアルベールの瞳の色でもあるわけで。夜空に星を散らしたように、細かな宝石が散りばめられたそのドレスを、修正箇所がないかと身に着けるたびに、くすぐったいような気持ちになるのだった。



 陛下は、あくまでも囮の一部だから、本当に開かずとも良いと仰っていたし、私もそれで良いと思っていたのだけど……。まさか、たったの一カ月で、こんなに素敵なドレスを作ってもらえるなんて思ってもみなかったわ。



 感動すると同時に、申し訳ない、と思ってしまうのもまた、仕方のないことだろう。

 国王テオフィルの言葉があってなお、アルベールとベルクール公爵家は、正式に結婚式を行うことを決めた。エルヴィユ子爵家としても、ベルクール公爵家がそう言うならばと拒否することなど出来るはずもなく。

 むしろカミーユの両親は、アルベールの判断と、彼に出会ってからのカミーユの変化を知っているためか、とても嬉しそうにしていた。おかげで、今回式に関わっている者たちには、かなりの無理をお願いすることになったわけだが。

 中でもウェディングドレスの製作をお願いしたブティックは、完全にオーダーメイドであったこともあり、眠る間もないくらい忙しかったはずだ。いくら方々の店を買収し、お針子を個人的に雇ったとしても、ぎりぎりの日程であったことは間違いないはずだから。