「お前がカミーユ嬢を独占しようとして、準備が先に進まなくなるのが目に見えてるからだろう。結婚式の会場として関わるため、この前の件を話しているから、こんな所にいないで早く主犯を見つけろ、という線もあるか。……何というか、ことカミーユ嬢が絡むことに関しては、本気で公爵夫人に信用されていないよな。お前」



 もぐもぐと、口にした焼き菓子を咀嚼しながら言うテオフィルに、反論することなど出来るはずもなく。アルベールは手にした紅茶を口に運んだ。



「……で。予定もなく、急にここに来た本題は? 囮として開放した二人にその後、変化はあったのか。どこかの伯爵と子爵の領地の外れに逃げ込んだとしか聞いていないんだが」



 自分の屋敷で、部屋に自分とテオフィルしかいないのもあり、アルベールはぞんざいな口調で訊ねる。国王である従兄の突然の訪問である。理由として考えられるのは、それであろう。

 王宮での夜会から、一週間と一日。夜会の翌日には、秘密裏にあの二人を解放したわけだが、彼らはすぐに二手に分かれたらしい。そしてそれぞれが、とある伯爵と子爵の領地の外れにある、領主の別荘に逃げ込んだと報告されていた。

 テオフィルはアルベールの口調を気にする様子もなく、「お前に報告してやるのを忘れるくらいには、特に動きはないな」と応えた。



「それぞれの土地の持ち主と、あの二人と関わりはないようだ。表立って調査出来れば早いんだが、ままならないな」



 溜息を吐きながら、「そういえば」とテオフィルは続けた。



「彼らは逃げ込んだ建物から一歩も出ていないらしいぞ。通いの使用人が世話をしていると。だが、その使用人に雇い主を聞いても知らないと言われるそうだ。金をやるというから、仕事をしているだけだ、とな。……予想以上に、手が込んでいる。あの二人に加え、あの時の使用人が逃げ込んでいる小屋にしても同じだ。共通することが何もない」



 うんざりした様子で続いた話に、アルベールは落胆を隠せなかった。彼らを裏で動かしている主犯に辿り着きさえすれば、カミーユの安全が一つ保証されるというのに。

 気分を変えようと、落ちて来た前髪を掻き上げながら、「一歩も動いていないということは、元々そういう契約だったのかもしれないな」と、アルベールは口を開いた。