それでも、いつも通り毎日カミーユの元を訪れはするけれど。彼女は現在、結婚式が行われる予定の、ベルクール公爵邸に入り浸っているわけで。顔を合わせて数度言葉を交わすだけで、アルベールの母であるロクサーヌに追い返されてしまうのだった。

 原因の半分は、先日の『真なる求婚』のことだろう。全面的にアルベールが悪いと思っているところが、母らしいとは思ったが。



 あのような事件が起きなければ、俺からであっても、カミーユからであっても、もっとしっかりと準備した上で『真なる求婚』が出来たことだろう。……俺がカミーユを守り切れなかったことが引き金であるとはいえ、当事者である俺を邪魔者扱いするとは……。



 我が母のことながら、息子への信頼度があまりにも低いと、アルベールは知らず溜息を吐いていた。

 ロクサーヌの考えでは、カミーユの後ろ盾がベルクール公爵家であると対外的に発表する意味もあって、ベルクール公爵邸で『真なる求婚』を行うことを進言するつもりだったようだ。それに関しては、アルベールもロクサーヌと同意見である。

 王位継承権を有する次期公爵の夫人として、子爵家の令嬢というのはあまりにも身分が違っていたからだ。いくらアルベールがカミーユを愛おしく思い、傍に置こうと、周囲がどういう反応を見せるかなど分かり切った話である。

 だからこそ、ベルクール公爵邸で『真なる求婚』を行うことにより、彼女の後ろにはベルクール公爵家がついているのだと示す必要があった。
 アルベールとしては、カミーユから求婚されること以上に嬉しいことなどないのだが、周囲がそれを理解するはずもないのである。



「だからこそ、ベルクール公爵邸で『真なる求婚』をやり直したというのに……」



 紅茶のカップに手を伸ばしながら、溜息と共にアルベールは呟く。先に挙げた事情などがあり、あの日の三日後、ベルクール公爵邸で正式に『真なる求婚』を行ったのだ。もちろん、慣例には従わずに、カミーユから求婚を受ける、という形で。



『ずっと、アルベール様の傍にいたいから……。私と、結婚してくれませんか?』



 招待された人々の前で恥ずかしそうにそう言った彼女の姿はあまりに愛らしく、今でも瞼の裏に焼き付いている。思い返す程に顔が緩みそうになるほど、鮮明に。
 だと、いうのに。