「その小屋のある領地を治める伯爵家と、昨夜の二人との関わりは分からないまま。調べさせてはいるが、あまり期待出来ないだろうとのことだ」



 使用人について、王宮で働いている者たちに聞いたところ、それほど目立っておかしなことをするような人間ではなかったという話である。また、その使用人と昨夜の二人もまた、面識がなさそうだとのこと。



「それぞれが都合良く、ばらばらに画策したとでも? ……何か共通点があるはずです。そうでなければ、あまりに出来過ぎている」



 その眉間に皺を寄せながら、アルベールがそう呟く。テオフィルもまた、それに頷いていた。



「ブラン卿の言う通りだ。まだ情報が少なすぎる。もう少し調べてみなければ、分かるものも分からないだろうな。何か揺さぶりをかければ、相手も慌てて襤褸を出すだろうか?」



 ふむ、と考え出したテオフィルに、アルベールやディオン、そしてカミーユも考え込む。王宮での出来事である。このような出来事が起きた以上、早いところ解決してしまいたいテオフィルの気持ちも分かった。

 一体どうすれば、自分を狙った相手を動揺させることが出来るだろうか。揺さぶり、その姿を見ることが出来るだろうか。

 この場に訪れる前にアルベールから聞いた話では、相手はいくつかの目的を持つ者に絞られるという。

 アルベールを政治的に気に入らず、カミーユとの婚約によって、二つの騎士団を手中に収めることを危険視する者。

 単にアルベールがカミーユと婚約したことが気に入らない者。

 穿った考えをするならば、アルベールが婚約者として選んだカミーユを害し、罪をギャロワ王国の内部の者に擦りつけ、内乱を起こさせたい他国の陰謀、ということも考えられるとか。

 どのような相手であっても、姿を見せざるを得ない程に動揺する事柄。嫌がる共通項といえば。



「……アルベール様が結婚式を行えば、どうでしょう?」



 そう、カミーユは提案した。カミーユの手を包んでいた大きな掌が、びくりと震える。

 我ながら良い考えだと思った。そうすれば、どの相手であっても、引きずり出すことが出来るのではないか、と。

 政治的にしろ、国内の内乱にしろ、アルベール自身が目的にしろ、相手はアルベールが結婚することを止めるために、カミーユを男たちに襲わせたのだろうから。結婚式ともなれば、動かざるを得ないだろう。そうして慌てて動いたならば、襤褸も出るはず。

 自分を囮にするようなものではあるけれど、そうでなくてもいつ何をされるのか分からないというのだから。いつまでも怯えて日々を過ごすより、早い内に終わった方がカミーユ自身も助かると、そう思う気持ちも確かにあった。