ちらり、とアルベールの方を見ながら言うテオフィルに、二人の仲の良さが透けて見えて、少しだけ微笑ましくなる。幼少期からの話し相手であり、従兄同士であるため仲が良いと聞いていたが、昨夜の会話と言い、どうやら本当のことらしかった。

 「彼の言い分を聞いてやってくれるかい?」というテオフィルの問いに、「分かりました」と言いながらこくりと頷く。元々、アルベールから話を聞いた際に、謝罪はともかく彼の話を聞いてみたいと思っていたから。



 バルテ伯爵家のご令嬢はきっと、アルベール様のことを想っていらしたのだと思うけれど。セーデン伯爵令息があの部屋を訪れたのは何故なのか、分からないままだったから。



 あの日、バルテ伯爵令嬢から感じたのは、明らかな敵意であった。アルベールに求婚された相手への嫉妬であろう。だからこそ、彼女がアルベールに好意を持っていることは分かったのだけれど。

 他の三人には、そのような意図が見当たらなかったのだ。いや、細かく言うならば、セーデン伯爵令息以外の二人からも、僅かに敵意のようなものは感じたけれど。バルテ伯爵令嬢のような、明確なそれではなかったのである。

 テオフィルはカミーユの言葉に頷いた後、セーデン伯爵令息の方を振り返った。「言いたいことがあるならば、伝えると良い」と言って。

 セーデン伯爵令息は静かに頷いた後、一歩こちらに足を踏み出して、深々と頭を下げた。



「セーデン伯爵家の長男である、ディオン・マイヤールと申します。その節は、大変申し訳ありませんでした。まさか、あれほど怯えられるとは思ってもいなくて……。いえ、そもそもシークレットルームに入ったことから全て、間違っていたのです」



 「本当に申し訳なく思っています……」と言う彼からは、やはり自分に対する敵意が伝わってこない。そもそも、直接謝ろうとするのだから、当たり前の話である。手紙では何とでも言えるが、面と向かって気に入らない相手に謝罪したいなど、普通ならば考えもしないだろうから。

 その点、ディオンの態度は、非常に真摯なそれであった。だから、頷いたのだ。「その謝罪を受け入れます」と。彼の言葉の通り、まさか自分があれほど怯えるとは思っていなかったのだろうから。



「ですが、一つだけ教えてください。あの日、なぜあなたはシークレットルームを訪れたのですか? あなたも、そして他の方々も」



 普通ならば、考えられない話だったから。最高位の貴族か、王族か。あの部屋を使うのはそういった身分の人間ばかりで、中にいるのが子爵家の娘である自分だと知っていたとしても、許される行為ではないと理解出来ないはずもない。だというのに。

 ディオンは頭を上げると、真っ直ぐにこちらを見る。「他の方々は知りませんが、……私の場合は、単なる好奇心でした」と口を開いた。