夜会が行われた翌日の、昼過ぎのこと。国王からの呼び出しを受け、カミーユはアルベールと共に、再び王宮を訪れていた。

 昨夜、足を運んだ大広間とは全く趣の違う、余計な家具や調度品のない、必要な物だけが揃った国王の執務室。このギャロワ王国の王である、テオフィル・ギャロワの本質を表しているかのように、広さの割には簡素なその部屋で、カミーユはアルベールと共に客人用のソファへと腰を降ろしていた。

 向かいの席には、部屋の主であるテオフィルと、彼の背後に立つ一人の青年の姿。その顔に見覚えがあって、カミーユは落ち着かない気持ちで、知らないうちにアルベールの服の裾を握っていた。



「……陛下。王宮で起こった事件を早急に解決したい気持ちは分かりますが、この場に彼を同席させることを、私は素直に頷けないのですが」



 カミーユが何を恐れているのか気付いたのであろうアルベールは、カミーユの手に自らのそれを重ねると、テオフィルへと抗議の言葉を伝える。低い声は明らかに冷たく、テオフィルも、そして彼の背後に立つ青年も、焦ったような表情を浮かべながら、僅かに頬を引き攣らせていた。



「頼むから、そう殺気立つな、ブラン卿。……何も言わずにマイヤール卿を呼んだのは謝る。すまなかった、カミーユ嬢。驚かせてしまったな」



 そう言って頭を抱えるテオフィルの表情は本当に申し訳なさそうで。先日、オペラハウスで顔を合わせた、セーデン伯爵令息と呼ばれていた彼の背後に立つ青年もまた、顔色を悪くしながら頭を下げている。

 カミーユは慌てて首を横に振り、「大丈夫ですわ、陛下」と口を開いた。



「道すがら、アルベール様に少しだけお話を伺いましたので。今回の出来事が、実際は私を狙ったものだった可能性が高い、と。彼はその件に何か、関わりがあるということなのでしょう?」



 そうでなければ、今この場にいるはずがない。アルベールから聞いた話では、今回の件は公にしておらず、最低限の人数で調査を行っているとのことだったから。

 テオフィルはカミーユの言葉に、ほっとしたように表情を緩めて頷く。「ああ、君の言う通りだ」と言いながら。



「おそらく君の婚約者から事件の概要は聞いているだろう。ここにいるセーデン伯爵家の令息、ディオン・マイヤール卿のおかげで、私たちは異変に気付けたんだ。その上、彼の機転で、君がいた休憩室から姿を消した、使用人の現在地も確認できている」



 「この件が片付くまでは、手伝ってもらうつもりだ」と、テオフィルは続けた。



「マイヤール卿は、先日のオペラハウスの件で君に謝罪したかったらしい。昨夜はあのようなことが起きてしまい、叶わなかったから、今日、この場に呼んでおいた。が、……先に伝えておくべきだったと、反省しているよ」