あの女があの方を伴ってティーパーティに参加したと聞いたあの日から、少しずつ計画を練って今に至る。王宮の使用人を買収し、誘惑し、必要な情報を得て。行きたくもなかった品のない夜会に出て、高位貴族のはみ出し者と取引をした。

 全てはあの方のため。あの方との未来を護るため。

 そうして、遂にその時が来た。



「カミーユ、疲れただろう。そろそろ休憩室へ向かおうか」



 普段からは想像も出来ないような、あの方の優しい声。妬ましさに張り付けた笑みが崩れそうになるのを必死に堪えながら、二人が夜会の広間を出て、休憩室の方へと消えていくのを見送る。

 そうしてしばらくして、あの方は一人で会場に戻って来た。予想していた通りに。



 これでもう、逃げられない。……仕方ないの。わたくしとあの方の関係を邪魔するのだもの。退場して頂かないと。



 思い、ふふ、と笑みを浮かべながら、休憩室へ続く廊下へと繋がる扉を見つめた。

 あの方が客人の相手をし始めた頃に、二人の男がその扉をくぐっていく。彼らは先日、仮面をつけたとある夜会に出席して見つけた、この舞台の立役者たちである。

 そして二人が扉の向こうに消えた後、入れ替わるように一人の使用人が会場へと入って来た。見覚えのあるその男は、こちらを見つけると、嬉しそうに笑みを浮かべて見せる。

 慌てて、顔を背けた。もし誰かが見ていたらどうするというのだろうか。もちろん、自分を見て嬉しそうにする男など掃いて捨てるほどいるため、それほど気にも留められないだろうけれど。

 再び視線を戻した時、使用人が扉の鍵を締めているのが見えた。これでもう、誰も休憩室の方に行くことは出来ない。それほど時間をかけずとも、言い逃れの出来ない状態になるだろう。



 休憩室に誰もいないことを確認して出てくるように言っておいたから、今あの扉の向こうにいるのは、あの女と、あの二人だけのはず。……どんな顔をするかしら。



 誰かが廊下への扉の鍵がかかっていることに気付き、それを開けて。あの方が挨拶を終えて、あの女の元へ向かったとして。

 二人の男と戯れるあの女の姿を見れば、あの方はきっと、ほっとするだろう。これで、あの女と結婚しなくても良いのだ、と。



 噂はすぐに社交界に流れるはずだから、陛下であっても婚姻を無理に進めることはないでしょう。他の男を誑かした汚らわしい女なんて、あの方に相応しくないのだから。



 そうして、使用人を始末し、あの二人の貴族令息たちとの取引を終えれば、そこまで。邪魔者は消え、あの方は自分の傍にいてくれる。想像するだけで、胸が躍るようだった。

 だというのに。