「国王陛下からのお手紙には、何と書かれていたの? カミーユ」



 ゆっくりとした足取りで近づいてきたアナベルも、エレーヌと同じように心配そうに訊ねてくる。よく似た二人は、アナベルが若々しい容姿なのも相俟って、まるで姉妹のように見えた。

 国王からの手紙の内容を、二人はどう受け取るかと少し不安に思いながら、カミーユはバスチアンから聞いた手紙の内容を「実は……」と、二人に聞かせる。二人はその表情を変えることなく話を聞き終え、同時に深く溜息を吐いていた。「ああ、やっぱり……」と呟いたのは、その額に手を当てたアナベルであった。



「あのお二人は、幼い頃から仲が良かったと誰もが知っているもの。ブラン卿が望むのならば、陛下がそれを否定なさるはずがないわ……」



 予想通りだった、というように呟くアナベルの表情は、少しも嬉しそうではなかった。手を伸ばし、カミーユの指先に触れてくる。「断っても良いのです、カミーユ」と、アナベルは目を細めて囁いた。



「陛下も、必ず婚約しろと仰っているわけではないのでしょう? 少しだけ話す時間を共にして、どうしても無理だったら、お断りしなさい。私も、旦那様も、これ以上あなたを不幸にさせるつもりはありません。いざとなったら、私たちが出て事態を収束させます。……決して、相手が伯爵で、次期公爵だからと、国王の命だからと、そんなことで気負うことはないのよ」



 アナベルはそう、ゆっくりとカミーユに言い聞かせる。「あなたの好きにしなさい」と、そう言って微笑む。けれど。



 国王陛下や、次期公爵であるブラン卿に睨まれてしまったら……。



 父や母、そしてエルヴィユ子爵家そのものにも、迷惑がかかるのではないだろうか。そんなこともまた、頭を過ぎった。