なぜ、このようなことになったのか。このような事態を許してしまったのか。



「侍女たちに来てもらえ。ご令嬢方の髪や服装を整えるように伝えろ。こいつらは、別室に捕らえておけ。話を聞かなければいけないだろうから」



 背後から聞こえた声に、アルベールはそちらを振り返る。厳しい顔をしたテオフィルは、疲れたような様子でこちらに歩み寄って来た。「自分の責任だ」と言いながら。



「間に合ったようだから良かったものの……。令嬢たちにも、話を聞かせてもらいたい。ここでは気分も悪いだろうから、別の部屋へ移そう」



 引き連れて来た騎士たちによって引きずり出されていく二人の男を見ながら、テオフィルは思案気に呟く。事態の収拾のためにと、彼がそう提案するのは当たり前のことであった。だが、だ。

 二人に移動を促すためだろう、テオフィルの背後にいた騎士の一人が足を踏み出した途端、ぎゅ、と、服の裾が引かれた気がして、アルベールは視線をそちらへと移す。平静を保った表情を浮かべるカミーユの肩はしかし、僅かに震え、いつかと同じく、縋るようにアルベールの服を握っていて。

 「申し訳ありません、陛下」と、アルベールはカミーユの姿を背後に隠すようにして、前に出た。



「このような事態となり、我が婚約者もそちらのご令嬢も、心身ともにとても疲れているはず。話を聞くのは、明日でもよろしいのではないでしょうか」



 カミーユを思うがゆえに、鋭くなった視線。テオフィルは僅かにたじろいだ後、申し訳なさそうに「気が利かなかったな」と呟いた。



「ミュレル伯爵の言う通りだ。今日の所はゆっくり休んでくれ。隣の部屋を開けよう。落ち着くまでは、そこで過ごすと言い」



 言って、彼はすぐに背後の騎士たちに指示を出す。騎士の一人がカミーユの背後にいた令嬢の元へ行き、エスコートして立ち上がらせていた。この分ならば問題ないだろうと、アルベールもまたカミーユの方に向き直る。ほっとした様子の彼女に、少しだけ安堵した。

 と、テオフィルが思い出したように、「ああ、そうだ」と口を開いた。今まさに部屋を出ようとしていた令嬢も、彼の方を振り返る。「このようなことを言って、また気が利かないやつだと思われるかもしれないが」と、彼は困ったように笑って続けた。



「休憩してもらうのはもちろん構わないが、その後、王宮を出るには、必ず夜会の会場に出る必要がある。そこでは、何事もなかったように振舞った方が良い。私とミュレル伯爵が急に姿を消したものだから、何事かと気にしている者も多いだろう。暗い顔をしていたら、根も葉もない噂を立てる者が現れないとも限らないからな」



 「困ったものだ」と息を吐くテオフィルに、しかしカミーユも令嬢もまた、神妙な顔で頷いていた。男性はともかく、女性の場合、社交界でおかしな噂が流れようものならば、貴族社会に身を置くことが出来なくなる。アルベールはくだらないと思っているが、そういうものなのだともまた、理解していた。