色褪せて、着色して。~悪役令嬢、再生物語~Ⅲ

 一体、太陽様はどうして自分が悪いって思い込んでいるんだろう?
 悪の根源はぜーんぶ蘭様だ。
 王弟で、国の政治担当、国家の騎士団でいえば頭脳班のトップ。
 イケメンといえば、イケメンだけれど。
 第一印象が最悪だから、好きじゃない。
 常識に欠けている上に、思い込みが激しいとしか言えない。

 ティルレット王国に来てから、毎日がジェットコースターに乗って。
 ドラマの主人公か、漫画のヒロインを演じている気分になってくる。
 ほとんど悪い方向にしか進まない。
 自分の駄目なところを身をもって経験してわかった。
 けどさあ、これ以上は悪くなりたくない。

 太陽様は3ヵ月間、ぶっ通しで働いていたので。
 1ヵ月ほどお休みをもらったらしい。
 実家に帰ればいいのに、帰ろうとしない。
 かといえ、騎士団の宿舎にも帰らない。
 当分、一緒にいる…というから「ええー」と悲鳴をあげてしまった。
「お疲れなんでしょうから、ゆっくりと自分の時間を作ってください。私は大丈夫ですから」
 一緒にいる…と言われても、どうしていいのかわからない。
「大丈夫っす。疲れてないっす。騎士なんで」
 と言って、腕の筋肉を見せつけてきた太陽様に、言葉を失う。

 純粋無垢な男が、大人になっても尚、(けが)れを知らず。
 その上、上司の言う言葉を疑おうともしない凄い男。
「マヒル様、お買い物に行ってもらったらどうでしょう? わたくし達は城下町に行けませんし」
 バニラがパチンッとわかりやすいようにウインクした。
「あ、そうだね。太陽様は騎士だから城下町にでも行って買い物してもらいましょうか」
 適当な理由をつけて、太陽様を追い出す。

 上司から一体、何を吹き込まれたのかは知らないけど。
 急に私に関心を持たないでほしい。
 優しくされることに慣れない。
「ご結婚されているのですから、覚悟を決めるしかありませんわ」
 と軽くたしなめるバニラに白目を剥いて見せた。