太陽様と政略結婚されたときから、離婚の文字は頭にあった。
いつ捨てられるかわからない不安から、私は働こうと決心して王家の領地に引っ越した。
それから、色々ありすぎて忘れていたけど。
離婚を言われても問題ないところまで到達してしまった…
夫婦だというのに一度も一緒に暮らしたことはない。
私は国王にちょっかい出され、蘭殿下には嫌われている。
こんな悪条件の妻なんか一緒にいたら、太陽様は出世しないし肩身が狭い。
「頭を上げてください。やめてください、土下座なんてなさらないで」
太陽様の肩を掴むが、太陽様は頭を上げなかった。
久しぶりに再会して、離婚か…。
それなら、会いたくなかった。
これ以上、傷つきたくないのに。
「セシルさんを傷つけました」
「…うん?」
頭を一向に上げてくれないので、私は太陽様の前にしゃがみこんだまま。
「俺がいない間、あなたが酷い目に遭っているなんて知らなかったんです」
「…あの、まわりくどく言わないで、要点だけ言ってもらえます? あと、いい加減。座りましょうか」
話が長くなりそうなので、冷たく言ってしまう。
太陽様が椅子に座るのを確認し、私も座る。
「今日は、謝りに来ました」
「えっ、それだけ!?」
素っ頓狂な声を出すと、「マヒル様!」と側で見ていたバニラが唇に人差し指をそえて、「しぃー」のポーズをした。
「すんません。謝るだけじゃ済まないですよね」
「いや、何か書類とか持ってきてるん…いや。なんでもない」
んんっと咳き込んで誤魔化す。
「給料明細は持ってきてないっす」
真顔で見当違いなことを言う太陽様に、口をあんぐりと開けてしまう。
どうやら、離婚話ではないみたいだ。
一安心したけど、太陽様が一体何を謝るって言うのだろう?
太陽様が顔を上げて私を見た。
濁りのない、澄んだ目だ。
この人は嘘がつけない。
「陛下…ローズ様がセシルさんを無理矢理抱きしめた事件に関しては俺、どうしても納得いかなくて。だって、ローズ様が意味もなく人妻を抱きしめたりなんてしないから」
人妻…いや、あなたの奥さんですけど。
相変わらず他人行儀な言葉に少し傷つく。
「ローズ様に訊いても教えてくれないし」
「いや、訊いたんかいっ」
思わず突っ込む。そういうの訊いちゃうんだ…
「そしたら、メグミ様…メグミ様は知ってますよね?」
「はい、あの巨人・・・知ってます」
スキンヘッドにサングラス、2mはあろう巨体。そして忍者。
情報量の多すぎるメグミ様を思い浮かべる。
「メグミ様が、陛下がセシルさんを抱きしめたのは、そこらへんの男がちょっかいださない為にわざとセシルさんが陛下のお気に入りだという噂を流すことで、セシルさんが守られるんだって」
「…そうなんですか?」
「なるほどって思いましたね。さすが、陛下だって。若い女性はこの領地内にほとんどいないから、念のため陛下の命令で護衛が動いて、陰ながらセシルさん達を守っていたらしいし」
次から次へと出てくる話に、信じられないという気持ちでいっぱいだった。
太陽様は純粋だから疑うことを知らない。
「だから、俺も安心して離れて暮らすことだって出来たし、仕事にだって集中できた」
「それなりに、心配してくれてたんですね」
婚姻届を書いたときの太陽様は、忘れない。
妹を守るために初対面の女と結婚させられて。
悲しむでもなく、怒るでもなく。
ただ、目を真っ赤にして黙々と婚姻届にサインしていた。
かつて、太陽様が熱をあげていたオバサンは私だよーと言っても信じないだろうな。
私は、好きな人の姪っ子(という設定)だから。
心配してくれていただけだ。
そう考えると、「はっ」と鼻で笑ってしまう。
再会してから、結構な頻度で失礼な態度を取っているけど、太陽様は腰が低い。
というか、気づいていない?
「でも、俺が戦地に行っている間。セシルさんとカレン様が仲良くなって。カレン様がテンマ騎士…あ、テンマ騎士ってのは蘭様の右腕なんですけど、テンマ騎士に襲われそうになっているところをセシルさんが助けて」
目をぱちぱちさせるが、太陽様は話すのに夢中だ。
「セシルさんが助けたっていうのに蘭様がなーぜか、セシルさんがカレン様に嫌がらせしたっていう話になって。蘭様がセシルさんをいきなり追い出して」
「……」
「そんで、誰も頼る人がいないから毎日野宿して身も心もボロボロになったって話を聞いて…」
「一体、誰がそんな話を」
まず、私はカレン様と仲良くなっていない。むしろ苦手だ。
そんで、毎日野宿? 野宿しようものなら、今ここにいないって。
完全に誰かに騙されている…もしかして、誰かの策略なのか。
「俺が悪いんです。すいませんでした」
立ち上がって頭を下げる太陽様に、
唖然とするしかなかった。
いつ捨てられるかわからない不安から、私は働こうと決心して王家の領地に引っ越した。
それから、色々ありすぎて忘れていたけど。
離婚を言われても問題ないところまで到達してしまった…
夫婦だというのに一度も一緒に暮らしたことはない。
私は国王にちょっかい出され、蘭殿下には嫌われている。
こんな悪条件の妻なんか一緒にいたら、太陽様は出世しないし肩身が狭い。
「頭を上げてください。やめてください、土下座なんてなさらないで」
太陽様の肩を掴むが、太陽様は頭を上げなかった。
久しぶりに再会して、離婚か…。
それなら、会いたくなかった。
これ以上、傷つきたくないのに。
「セシルさんを傷つけました」
「…うん?」
頭を一向に上げてくれないので、私は太陽様の前にしゃがみこんだまま。
「俺がいない間、あなたが酷い目に遭っているなんて知らなかったんです」
「…あの、まわりくどく言わないで、要点だけ言ってもらえます? あと、いい加減。座りましょうか」
話が長くなりそうなので、冷たく言ってしまう。
太陽様が椅子に座るのを確認し、私も座る。
「今日は、謝りに来ました」
「えっ、それだけ!?」
素っ頓狂な声を出すと、「マヒル様!」と側で見ていたバニラが唇に人差し指をそえて、「しぃー」のポーズをした。
「すんません。謝るだけじゃ済まないですよね」
「いや、何か書類とか持ってきてるん…いや。なんでもない」
んんっと咳き込んで誤魔化す。
「給料明細は持ってきてないっす」
真顔で見当違いなことを言う太陽様に、口をあんぐりと開けてしまう。
どうやら、離婚話ではないみたいだ。
一安心したけど、太陽様が一体何を謝るって言うのだろう?
太陽様が顔を上げて私を見た。
濁りのない、澄んだ目だ。
この人は嘘がつけない。
「陛下…ローズ様がセシルさんを無理矢理抱きしめた事件に関しては俺、どうしても納得いかなくて。だって、ローズ様が意味もなく人妻を抱きしめたりなんてしないから」
人妻…いや、あなたの奥さんですけど。
相変わらず他人行儀な言葉に少し傷つく。
「ローズ様に訊いても教えてくれないし」
「いや、訊いたんかいっ」
思わず突っ込む。そういうの訊いちゃうんだ…
「そしたら、メグミ様…メグミ様は知ってますよね?」
「はい、あの巨人・・・知ってます」
スキンヘッドにサングラス、2mはあろう巨体。そして忍者。
情報量の多すぎるメグミ様を思い浮かべる。
「メグミ様が、陛下がセシルさんを抱きしめたのは、そこらへんの男がちょっかいださない為にわざとセシルさんが陛下のお気に入りだという噂を流すことで、セシルさんが守られるんだって」
「…そうなんですか?」
「なるほどって思いましたね。さすが、陛下だって。若い女性はこの領地内にほとんどいないから、念のため陛下の命令で護衛が動いて、陰ながらセシルさん達を守っていたらしいし」
次から次へと出てくる話に、信じられないという気持ちでいっぱいだった。
太陽様は純粋だから疑うことを知らない。
「だから、俺も安心して離れて暮らすことだって出来たし、仕事にだって集中できた」
「それなりに、心配してくれてたんですね」
婚姻届を書いたときの太陽様は、忘れない。
妹を守るために初対面の女と結婚させられて。
悲しむでもなく、怒るでもなく。
ただ、目を真っ赤にして黙々と婚姻届にサインしていた。
かつて、太陽様が熱をあげていたオバサンは私だよーと言っても信じないだろうな。
私は、好きな人の姪っ子(という設定)だから。
心配してくれていただけだ。
そう考えると、「はっ」と鼻で笑ってしまう。
再会してから、結構な頻度で失礼な態度を取っているけど、太陽様は腰が低い。
というか、気づいていない?
「でも、俺が戦地に行っている間。セシルさんとカレン様が仲良くなって。カレン様がテンマ騎士…あ、テンマ騎士ってのは蘭様の右腕なんですけど、テンマ騎士に襲われそうになっているところをセシルさんが助けて」
目をぱちぱちさせるが、太陽様は話すのに夢中だ。
「セシルさんが助けたっていうのに蘭様がなーぜか、セシルさんがカレン様に嫌がらせしたっていう話になって。蘭様がセシルさんをいきなり追い出して」
「……」
「そんで、誰も頼る人がいないから毎日野宿して身も心もボロボロになったって話を聞いて…」
「一体、誰がそんな話を」
まず、私はカレン様と仲良くなっていない。むしろ苦手だ。
そんで、毎日野宿? 野宿しようものなら、今ここにいないって。
完全に誰かに騙されている…もしかして、誰かの策略なのか。
「俺が悪いんです。すいませんでした」
立ち上がって頭を下げる太陽様に、
唖然とするしかなかった。



