色褪せて、着色して。~悪役令嬢、再生物語~Ⅲ

 夕食時、サンゴさんは胸の内を打ち明けてくれた。
「右腕を失くしてから、人前に出るのが怖かったんだ」
 お腹がすいているのか、サンゴさんの隣でカイくんがガツガツとシチューを食べている。
「同情されることや、カワイソウって思われることが何よりも嫌だった。今だから言うけど、初めてカイと会った時。カイは俺見て号泣したからな」
 サンゴさんがカイくんの頭をぽんぽんっと撫でる。
 カイくんはバツが悪そうに唇を尖らせる。

「どのような心境の変化で手伝ってくれたのしょうか?」
 バニラがカイくんのお皿におかわりをよそいながら言う。
「何だろうな? 姫君が頑張ってんの見たせいかな。それに、こいつが雇用主に文句言いに行ったというのがデカいのかもな」
 カイくんは恥ずかしいのかうつむいたままだ。

「姫君が思っている以上に、ここにいる人間は救われたのかもしれないな」

 サンゴさんの言葉に、私は全力で首を横に振った。
「そんなこと、ありません」
「そんなことあるから、言っているだけだ」
 サンゴさんはシチューをたいらげると「おかわり」とバニラに言った。

「そういえば、今日。ナズナ様がサンゴ様のことを英雄っておっしゃってましたね。サンゴ様は伝説でも持っていらっしゃるのですか?」
 言葉に詰まっている私を見て、すぐにバニラが話題を変える。
 カイくんはスプーンを置くと、スケッチブックに「国民みんなが知ってる伝説」と書いた。
「まあ、そんなに有名な伝説でしたの!?」
 バニラがお得意のオーバーリアクションをすると。
 カイくんは嬉しそうに笑ってペンを走らせる。
「サンゴは、ドラゴンをたおした」
 カイくんの書いた文字に「あん?」と凝視してしまう。
「しかも15さいのとき」
 カイくんは書き終えると、にやにやながらサンゴさんを見る。
「ドラゴンって・・・え、魔法使えるってことですか?」
 ドラゴンって実在するのか?
 もしかして、私の思い描いているドラゴンとは違うものなのか。
 じわじわと混乱していると、サンゴさんは私を見て、
「魔法なんて使えるわけねえだろうが。他国じゃ魔法使って空想上の生物どんどん生みだして、国を襲わせて。人同士で戦うことのほうが少なくなってる」
 ぶつぶつとサンゴさんが文句言い出したが、口を開けたまま私は固まってしまう。
 この国は延々と戦争が続いているというけど、一体。
 何と戦っているのか?
 平和ボケしてしまっている私には、わからぬことばかり。