丸太をノコギリで切っていると。
 草むらから、カイくんたちが「わぁー」と全力で走ってやってきた。
 てっきり、もうここには来ないと思っていたから、
「何で来たの?」
 と顔をしかめて言ってしまった。

「ユキ様から許可をいただきました」
 ナズナくんが真剣な顔で言った。
「午前中は秘密の館で仕事をして午後はマヒル様の家を手伝うということで、ちゃんと話し合いました。だから、マヒル様が叱られることは絶対にありえません。これからも手伝わせてください」
 ナズナくんは大人っぽい口調で頭を下げる。
 後ろにいた3人も慌てて頭を下げた。
「あと、バニラさんのお菓子も食べたいです」
 セリくんが言うと、バニラが「まあ、嬉しい」と言った。
 なんで、この子たちは、こんなにも私に親切にしてくれるんだろう。
 他国からやってきた得体の知れない人間をどうしてここまで慕って親切にしてくれるのか。

 気づいたら、ぐいっとナズナくんの腕を引っ張って抱きしめていた。
 セリくんとキキョウくんが「ぎゃー」「わー」と悲鳴をあげる。
「ありがとう、ナズナくん」
 ぎゅっと抱きしめて、ナズナくんの頬にチュッと音を立ててキスをする。
 みるみるとナズナくんの顔が赤くなっていく。
「マヒル様、この国では人前でハグやキスをするのはどうかと…」
 真っ赤になっているナズナくんを見ながらバニラが言う。
「あ、ごめんごめん。私の国ではお礼というか、挨拶みたいなもんだから気にしないで」
 へらへら笑って言うと。
 カイくんがスケッチブックに「ナズナだけずるい!」と書いた。
「わかった、公平に全員にやるから。スカジオン式のお礼ね」
 ま、本来そんな挨拶の仕方はないのだろうけど。
 感謝しきれない。
 少年にキスなんてしたら自分の国だったら捕まる? のかなあと思いながら。
 セリくんをハグし、キキョウくんにハグし。
 最後に一番世話になったカイくんをぎゅーと長くハグしてキスしようとすると。
 カイくんは素早く私の唇に自分の唇を触れてきた。
 驚いていると、ナズナくんが「ぎゃー」と叫んだ。
「カイ、人妻にキスしちゃ駄目なんだぞ」
 ナズナくんの口から人妻という単語が出てくると変な感じだ。
 カイくんは驚いて、スケッチブックに「結婚してるの?」と書いた。
「うん、そうだけど」
 カイくんは「何で、旦那さんと一緒に暮らさないの?」と書いてきたので答えに困った。
 セリくんとキキョウくんは即座にカイくんに向かって「マヒル様を困らせるな!」と怒鳴った。
「カイ、マヒル様は人質としてこの国に来て、無理矢理騎士団のお偉いさんと結婚させられて。旦那さんは今、戦場に行ってるんだよ。それに、マヒル様は国王の愛人だから凄い人なんだぞ」
 うわあ…子供たちにも私の噂は広まっていたのかあ。
 国王は独身だから、愛人なのか? と思ったけど。
 なんか、やっぱりイメージ的に良い印象はないよなあ…。
 カイくんはナズナくんの説明がわからず、ぽかんと口を開けている。
「こんな私でごめん」
 ポロっと出た言葉に、セリくんとキキョウくんが「そんなことない!」と声をそろえて言った。