そぉー…と玄関の扉を開けて屋敷を出る。
 バニラがそっとハンカチを差し出してくれた。
「ありがとう。なんか、嬉しいね…」
「わたくしは、腹がたっております」
 ぷりぷりしているバニラを「まあまあ」となだめる。

「騎士になるには、10~15歳までの6年間、専門学校に通って。無事に合格しなければいけないそうです。騎士になれば、生涯困ることもなく、自身の家族も食べるに困らないと聞いております」
「信じられない…10代で働かなきゃいけないって。私、13歳のときピアノ弾いてテイリーに文句言ってただけだよ」
 涙を拭う。
「わたくしはユキ様が上から目線であの子たちを物のように扱っているようにしか見えませんでした。いつだって弱者は自分の思いを告げることは許されない」
 男の子たちと自分を重ねている部分があるのだろうか。
 バニラは唇を強く噛みしめている。

 秘密の館…を眺める。
 王家の権力じゃなかった。
 カスミさんとは、もう仲良くなりたくない。悪いけど、喋りたくもない。

 睨み付けるように館を見て、家に戻って作業を再開しようと思った。