ここに来てから、本当に自分は助けられていることに気づいた。
 祖国で…実家で暮らしていた頃の私は居ても居なくてもいいような存在だった。
 ヒューゴと結婚すれば、絶対に幸せになれる。
 そう信じて疑わなかった。
 とにかく、突き進んで。
 家族に認められたかったのだろうか。

 やさしさが沁みるなあ。

 蘭様に家を追い出されてから一か月が過ぎた。
 蘭様の直属の部下を目にしていないからわからないけど。
 バニラ曰く、「監視が一気に緩くなってますわ」と言った。
 騎士団の人間は、バニラが言うよりも早くに察知していたようで。
 ジョイさんとマリアちゃんは頻繁に手伝ってくれるようになった。
 棟梁に関しては頻繁にではないけど、弟子を連れて作業を手伝ってくれる日もあって。
 リノベーション作業は一気に進んで行く。

 一体、私はどこを目指しているのだろうと夕方になって。
 空を見上げると虚しくなる。
 完全に自分のことで忘れていたけど。
 まだ、戦争は終わらないのだろうか。
 太陽様との連絡手段が見つかるわけもなく。
 途方に時間だけは過ぎていく。

 家に帰れば、一人で食事をして部屋に戻ってピアノを弾き続けた学生時代。
 今は、バニラがいてくれる。
 サンゴさんや可愛いカイくんだっている。

 ふと、よぎる不安というのは溜めておくと、よくないようで。
 バニラじゃないけど、「嫌な予感」が腹の底にあった。

 その日は、バニラと2人で作業をして。
 疲れたので家の前で休んでいると。
 4人の男の子たちがやって来た。
 男の子…と言っていたけど、全員13歳になる少年だそうだ。
 同い年と聞いたときは絶叫してしまった。
 カイくんは11歳くらいにしか見えなかった。
「フィナンシェを焼きましたので、良かったらどうぞ。お茶もありますよ」
 バニラが言うと、男の子たちは「やったー」と叫ぶ。
 毎日のように、やって来ては出来る範囲で家づくりを手伝ってくれる子たちは。
 カイくん以外の3人とも仲良くなった。
 眼鏡をかけて学級委員のような…優等生なイメージがあるのはナズナ。4人のまとめ役。
 ひょろりと背の高い男の子はセリ。
 褐色の肌にアースアイという珍しい瞳の持ち主はキキョウ。

 何故かこの4人は私を気に入ってくれている。
 この子たちはお喋り好きじゃないから、自分たちのことをあまり喋らない。
 私が学生時代のことを話すと大喜びで耳を傾けてくれる。
 かわいいなあ…と思いながら接している現状。

 お菓子を食べながら、喋っていると。
 ナズナとカイくんが同時に横を向いた。
 視線の先にいるのは、カスミさんだった。
 カスミさんはツナギ姿でこっちを見ている。
「ごきげんよう、カスミ様」
 上手く話そうとしても、イライラが顔に出てしまう。
 頭でわかっているのに。
 カスミさんを見ると腹が立つ。

「ごめんなさい、ある方がマヒルさんを呼んでいて…」
 申し訳なさそうに言う、カスミさんに嫌な予感を覚えた。