翌朝、目を覚ますと。
 自分がどこにいるかわからなかった。

 どこだっけ?
 起き上がって、カーテンを引くと見たことのない光景が見える。
 目をしょぼしょぼさせながら、現実へと引き戻されていく。
 サンゴさんの家だ。
 追い出されたんだった…

 身支度を終えて居間へいくと、バニラがちょこんと囲炉裏の前に座っている。
「おはようございます、マヒル様」
「おはよう、バニラ。サンゴさんとカイくんは?」
「もう2人とも外出なされておりますわ。今、朝食の準備をします」
 バニラはどうやら縫物をしていたらしい。
 朝から本当に良く働く子だわと感心する。

 バニラが用意してくれた朝食を食べて。
 もう一度、住む予定となっている廃墟…家を見に行こうと準備をして。
 バニラと一緒に家を出る。
 昨日は絶望と空腹で延々と歩いた記憶があるけど。
 サンゴさんの家から廃墟まではそこまで遠くなかった。

 改めて見ると、やっぱり廃墟。
 ため息しか出ない。
「申し訳ありませんが、わたくしには建築の知識はありませんので…」
 とバニラが謝る。
「いやいやいや。侍女にそんな知識あるほうがオカシイからね!?」
 手をぶんぶんと振ってバニラをなだめる。
「そうなりますと、村にいる大工さんに住めるよう頼むしかなさそうですねえ」
 虚ろな目でバニラは言うが。
 私はうーんと頭を抱えた。
 ボロ家だとわかっていて蘭様は私達に引っ越すように命令した。
 それは、嫌がらせ以外のなんにでもないことはわかってる。
 私たちは途方にくれて、誰か知り合いのところへ行くルートか大工さんに工事を頼むルート…どちらかを選択するかなんて蘭様にはわかりきったことだと思う。
「多分さ…大工さんに頼んでも、蘭様の圧力がかかっているんじゃないのかなあ」
 考えれば、考えるほど。
 頭が痛くなってくる。
 昨日はカスミさんにばっさりと宿泊を拒否されて、本気で嫌いになりかけたけど。
 殿下に命令されたのだとしたら、カスミさんだって従うしかないだろう。
 一度、住んでしまったら。正当な理由がない限りこの王家の領地からは出ることは出来ない。
 その上、私は王族の人間と関りを持っているから簡単に領地からは出られない。
「でも、カスミさんが仮に蘭様に命令されて宿泊を拒否したとして・・・どうしてサンゴさんは受け入れてくれたんだろう?」
「確かにそうですわね」
 うーん…と腕を組んで考えてみたけれど、何も思いつかなかった。

 バニラと廃墟の前で考え込んでいると。
 ガサガサと草むらから物音がする。
「えー、タヌキ? キツネ? この村って動物出るんだっけ?」
「さあ、どうなのでしょう?」
 と言いながら、臆することなくバニラはずんずんと草むらのほうへ進んで行った。
 草むらをかきわけると、そこにいたのはカイくんを含めた4人の男の子たちだ。

 4人たちは私を見ると、「わあ…」と悲鳴交じりに声をあげる。
「あなたたち、カスミ様の家でお手伝いしてたんじゃないの?」
 しゃがみ込んでいた男の子たちは立ち上がってお互いの顔を見合わせて何も言わない。
 ただ、じぃーとこっちを見てくるだけだ。
 何で、そんなにジロジロ見るんだろう。
 仕方ないので、こっちも男の子を見つめる。
「ねえ、あなた達。大工さんの知り合いはいないかな?」
 質問すると、男の子たちは、男の子たちだけでボソボソと相談し合った。
「大工さんは知りません」
 眼鏡をかけた男の子が言った。
「じゃあさ、DIYが得意な人でもいいからさー」
 と言えば、「でぃーあいわい?」と男の子たちは首を傾げた。