お互い、驚いて声が出なかったのだと思う。
 国家騎士団の制服を着た男の人だ。
 だけど、どう見てもティルレット人じゃなかった。
 私と同じ外国の顔立ちだった。
 金髪のサラサラとした髪の毛はショートマッシュと言えばいいのか…
 じっと私を見る瞳の色は、私と同じ青色だ。
 まるで、少女漫画から飛び出してきたような美男子だった。
 太陽様もカッコイイけど、あの人はどちらかといえばガテン系のマッチョで。
 この人は、繊細で顔立ちは女性っぽい。
 男性は外国人である私が珍しいのか、ぽかんと口を開けて見つめている。
「ごめんなさい。怪しい者じゃないんです。私は、講堂に行きたいんです。ピアニストです!」
 大声で言うと、男性は「あ、ああ」と動揺を隠せない様子で頷いた。
 何故、動揺するのか…よくわからなかったけど。
 騎士団の制服を着ているっていうことは、緑目の男と同じでこの国に住む騎士団の人間ってことなのだろう。
「講堂は、この道をまっすぐ行ってすぐ右折したところだ」
「右折ですね、ありがとうございます。では」
 急いで行こうとすると、
「待て」
 と呼び止められる。
 恐る恐る足を止めて、私は男性を見る。
 これは・・・バニラじゃなくても、嫌な予感(・・・・)だとわかる。
貴女(あなた)の名前は?」
 やっぱり。
「わたくしの名前はセシル・マルティネス・・・じゃなかった、結婚したから、セシル・マルティネス・カッチャーでございます」
 この国では、旧姓に夫の苗字をプラスして名乗るらしい。
 慣れない自分の名前に妙な違和感を感じながら答える。
「カッチャー? どこかで聴いたような」
「えっと…夫は太陽と呼ばれていまして、国家騎士団にいるんですけど」
「ああ、太陽の」
「夫をご存知で?」
「太陽は俺の部下だ」
 なんたる偶然だろう。
 太陽様の上司が目の前にいる。
 しかも、私と同じ海外の人間なんだ・・・

「……」
「……」
 お互い黙り込む。
「えーと、すいません。人を待たせているので失礼します」
 ぺこりと頭を下げてその場を逃げ出した。