あー、ほんと王家って面倒臭いな。
 帰り際、あまりにもムカついたから、
「そんなに奥様が心配でしたら常に護衛でも付けたらいかがですか? 出来たら、女性がよろしいかと…」
 と言うと、蘭様は「うるさーい」と絶叫した。
 前から思ってたけど、蘭様って普段からあんなに声がデカいのだろうか。
 あーあ。王家のことなんてこれっぽっちもわからないけど。
 馬鹿らしいったら、ありゃしない。

 ぷんぷんしながら、馬車を降りて。
 バニラになんて説明しようか…
 考えていなかったことに気づく。
 頭の良い子だから嘘なんて通用するわけもなく。
 ただ、この理不尽するぎる罰を説明したら…怒るよなあ。

「なんですか、それは!!」

 案の定、バニラは大声で怒った。
 雪のような白い肌はみるみると赤くなっていく。
 赤い色の瞳はメラメラと燃え上がった。
「何故、マヒル様が引っ越さなければならないのですか! 何故、村外れなんかに引っ越さなければならないのですか! これは、スカジオン王国に対する冒涜ではないですか!」
「冒涜って…そもそも私。一般人だからね」
 王族…という設定というだけで。
 元貴族で、婚約破棄されたカワイソウな女…というだけだ。

「マヒル様は何故、そんな平然としていられるのですか!」
「いやあ…だって、バニラがそんなに怒ってくれるんだからさあ」
 まさか、こんなに怒ってくれるとは思わなかった。
 顔を真っ赤にして怒るバニラを見ていると不思議とムカムカした気持ちはおさまった。
「それに、なんというか…試されてる感じがするというか」
「試されてるですって! マヒル様。違いますよ。本当にこの国の人間は…」
 バニラの口を慌てておさえた。
「それ以上、言ったら駄目だよ。バニラはそんなこと言う子じゃないでしょ」