カレン様はこっちに気づいたのか、応援団並の大声で叫ぶと。
 ドレス姿にも関わらず、全速力でこっちに走ってきた。
 うわぁ~と面倒臭い顔をするが、カレン様は気づくはずもない。
「先生、お約束していたのにごめんなさい。遅れてしまって」
「え? 何…が」
 カレン様は凄い力で私の手を掴んだ。
 後ろでぼおーと立っていたオッサン騎士が怒ったように、こっちへ歩み寄ってくる。
 ああ、面倒臭いことになってしまったぁ…

 50代、バーコードハゲのおっさん。
 態度からするに多分、偉い人だ。
 背が低いのでじろりと私を見上げる。
「私はまだ話し中なのだが。どちら様で」
 おまえこそ、誰だよ!!
 心で叫ぶ。
「わたくし、こちらのマヒル様と待ち合わせをしておりましたの。ですので、失礼いたしますわ」
 ぎゅっとカレン様は掴む力を強めた。
 え、約束なんてしてませんけど。
 常識に考えて夜中に何で約束するんだよぉ。

 おっさん騎士は「まひるぅ? なんだ、そのふざけた名前は…」とこっちを睨む。
 ふざけてませんけど…
「もしや、マヒルというのは。陛下の心を取り乱した泥棒猫か?」
「泥棒猫…私が?」
 何で、初対面のオッサンにそんなこと言われなきゃいけないのか。
 おっさん騎士は頭のてっぺんからつま先までジロジロ私を見ると、
「貴様のような女がいるから王家が乱れるのだ。カレン殿、戻りますぞ」
 ぎちり…とカレン様は掴んでいる力を強める。
 この人、握力強すぎじゃない?
 あからさまに、カレン様が私に助けを求めているのはわかる。
 関わりたくない。
 でも、この状況はどうしようもない。
 カレン様とこのモブ野郎のどっちを取るかといえば…

 私はにっこりとモブ野郎に微笑む。
「王家が乱れるかどうかは、国王に聞いてみましょうか? 近くにローズ様の側近がいることですし。お呼びしましょうか?」
 とびっきりの皮肉を込めて言うと。
 モブ野郎は、あわあわと慌て始めた。
「今日はこれくらいにしておきますが、カレン殿、立場をわきまえてください」
 と言ってモブ野郎は暗闇に消えて行った。