案内された庭園の隅に、テーブルと椅子があり、
 テーブルの上には、ケーキとお茶が用意された。
 ケーキは緑色をしていたので、見るだけで食欲が激減してしまう。
 私が席につくと、バニラは自然に私の後ろに立つ。
「あらっ、バニラさん。座ってください。一緒に食べましょう」
 カスミさんが驚いて叫ぶように言った。
「バニラ、座ろう。今日は女子会だよ」
 振り返って私が言うと、
「わかりました」
 と言って、バニラが座る。
 カスミさんが「じょしかい?」と首を傾げながら、緑色のケーキを切り分けてくれた。

 見るからに食欲の進まない色をしているケーキだけれど。
 一口、食べてみると、あーらビックリ。
 美味しすぎて「えっ、おいしい」と声が漏れてしまう。
「良かったー。お口に合って。ほうれん草とバナナのケーキです」
 にっこりと笑いながら、カスミさんが言う。
「本当に美味しいですわ。カスミ様。後で是非ともレシピを教えてください」
「ええ。勿論」
 カスミさんはリラックスした状態でバニラと会話している。
 2人の会話を聞きながら、木の陰から数人の男の子たちがこっちを見つめていることに気づいた。
 私がそっちに視線を向けると、バニラも男の子たちのほうへ視線を向ける。
「マヒル様が珍しいんですかねえ」
「やっぱり、海外の人間って珍しいのかなあ…」
 カスミさんも、男の子たちのほうを見つめると、
「ごめんなさい。マヒル様があまりにも美しいからだと…」
「確かに、マヒル様は美しいですもんね」
 うんうんとバニラが頷く。
 そう言われると、なんだか悪い気はしない。
 綺麗だから見られるのは当たり前だ。

「あの男の子たちは庭師見習いか何かですか?」
 バニラが質問する。
「見習いというより、雑用係ですかねえ」
 カスミさんがのんびりした口調で答えて、にっこり笑う。
「王家の領地に来てから思ったんですけど、バニラのような若い侍女って極端に少ないですよね」
 まだ、湯気の立つ紅茶を一口飲んで、私は言った。
 男の子たちは身動きせずに、こっちをじっと眺めている。
「ああ…基本。領地は女性立ち入り禁止ですからね」
 さらりと、カスミさんの言った言葉に「えっ」と声を漏らす。
 私の国でそんなこと言ったら、女性差別だの女性軽視だの散々、叩かれるに決まっている。
「やはり、男性社会なんですねえ」
 バニラは険しい顔をしている。
「いいえ…ここだけの話ですけど。先代の王妃様が物凄く嫉妬深い女性だったそうで。王家に関わる若い女性は皆、排除したとの噂があるんです」
 カスミさんの言葉に、私は声が出なかった。
 ホラー映画よりも、怖い話だと感じた。
「私がここへ来たときは20代だったんですけど。兄が先代の王様のお気に入りということで、特別に許可して住まわせてくれたそうです」
「……」
 王様のお気に入り…。
 改めて屋敷を見る。
「兄や、兄の友人達や…家族がいるから寂しくはないんですけど。でも、やっぱり同性の人間と話したいって思うときがあるんですよ。結婚する前は、カレン様の侍女をしていた時期もあったんですけどねえ」
「カレン様の侍女? 本当ですか」
 この前出会ったサクラ様といい、高確率でカレン様の侍女に出会っている。