馬車に乗って外を眺めていると。
 住宅街だったはずなのに、いつのまにか周りは開けて。
 バニラが言うように、畑が見えたので「本当だ…」と驚く。

 王族の関係者は決められた土地でしか住めないと言う話だけれど。
 土地と言っても、小さな村が3つもある大きな場所なのだ。
 でも私は、週に2日。講堂へ行ってピアノを教えて。
 それ以外はほとんど家でピアノを弾くだけの毎日を送っていた。

 バニラの言う事なんて信じられなかったけど。
 本当に畑があった。
 畑を通り過ぎた後、庭園があり、庭園の奥に屋敷が見える。
 立派な屋敷を見て、これは…身分の高い人だよなあとすぐにわかった。
 馬車が屋敷の前で止まると。
 勢いよく屋敷の扉が開いた。
 バニラが先に降りて、私の手を引いて降ろしてくれる。
「うわあー」
 第一声は悲鳴まじりの声だった。
 前を向くと30歳前後だろうか?
 茶色い髪の毛をお団子にして、白いワンピース姿の女性が現れた。

「よくぞ、こんなところまで来ていただきました。すっごい、お人形さんみたい」
 じろじろと見られるのは慣れているけど、お人形さん…と言われるのは初めてだ。
「カスミ様、こちらがわたくしのご主人様であるマヒル様です」
「…どうも」
 私が小さな声で言うと、
「はじめまして。私はカスミって言います。凄いですね~」
 何が凄いんだろう…
 カスミさんは、じぃーと私の顔を眺める。
 食い入るように、見つめてくるので後ろのめりになる。
「本日はお茶会にご招待いただきありがとうございます。ご会場はどちらで?」
 助け船を出すように、てきぱきとバニラが言った。
「あ、そうですよね。お茶会! そう、お茶会。室内はちょっとゴチャゴチャしているので、こちらの庭園で…はいっ。準備しますねー」
 と、言ってカスミさんは屋敷の中へと吸い込まれて言った。

「…私の顔の何が凄いんだろ」
 思わず、呟いてしまう。