ジャックさんは長い睫毛を上下に動かして、「と、いいますと?」と言った。
「私、考えたんです。今はいいですけど、いつかは太陽様に見捨てられるかもしれないって。そう考えた時、ちゃんと自立して生活できている人間じゃなきゃ駄目だって思って」
「…王族の姫君という設定だというのに、ぶっ」
 堪えきれなくなったのか、アハハハと声をあげてジャックさんが笑った。
「のんびり暮らせばいいのに、偉いですねえ」
 ゲラゲラ笑い続けるジャックさんに、むっとしていたけれど。
 ジャックさんは笑うのをやめて真剣な顔になった。
「具体的にどのような仕事をしたいのですか? やはり、ピアノの仕事ですか?」
「そうです。私にはピアノしかないので、ピアノの演奏かピアノを教える仕事がしたいと思っています」
「そうですか」
 ジャックさんはパーマをあてた髪の毛を指でつまんで。
 何かを考えるような仕草をした後、
「そうですねえ…。王室で働くっていうのはどうでしょう」
「おうしつ…?」
左右の指を絡めて、お祈りのようなポーズをしたジャックさんは、
「王族にピアノを教えるんですよ。確かピアニストを探していたはず」
「おうぞく…?」
「王族にピアノを教える場合は宮殿近くの家に引っ越してもらうことになります。安全ですが、一度入ってしまったら、王族の領地からは出ることが許されない」
「…王族って、あの王族?」
「王族に関係する人間は王家が所有する土地で一生を過ごすことになっているんです。ただ、食うに困ることはないと思いますよ」
 食うに困ることはない…孤児院出身のジャックさんらしい発言だなと思った。
「まあ、よく考えてもらって答えはいつでもいいので」
「私、行きます」
 即答すると、さすがにジャックさんは驚いた顔をして、こっちを見た。
「本当にいいんですか?」
「あ、でも。侍女を連れていいのであればの話ですけど」
 私が言うと、ジャックさんはアハハハとまた声に出して笑い出した。

「フツーは嫌がるもんですけどね。さすがですね」
「…どうも」